「僕はDay Dream Believer そんで彼女はクイーン。 そんなにCGバトルって必要なの?」ワンダヴィジョン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
僕はDay Dream Believer そんで彼女はクイーン。 そんなにCGバトルって必要なの?
マーベルのキャラクターが一堂に会するアメコミヒーロー映画「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」に属するミニシリーズ。
郊外の閑静な町「ウエストビュー」へと引っ越してきたワンダとヴィジョン。自分たちの正体がバレない様に苦労しながらも幸せな新婚生活を送る彼らだったが、実はこの町にはある秘密があった…。
○キャスト
ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ…エリザベス・オルセン。
ヴィジョン…ポール・ベタニー。
製作総指揮はケヴィン・ファイギ。
曰く、マーベル・スタジオ“初の“ドラマシリーズ。…はて、以前にも『エージェント・オブ・シールド』(2013-2020)とか『デアデビル』(2015-2018)とか色々あった気がするんですが?
一応、本作以前に公開されたドラマは「マーベル・テレビジョン」という子会社が制作していたものなので「マーベル・スタジオ初」というのは嘘ではないのだが、やはりこの触れ込みは少々厳しい。因みに、その後マーベル・テレビジョンはスタジオのレーベル名として復活しており、より一層ややこしい感じになってしまっている。
本作はDisney+のオリジナルコンテンツとして配信された。当時、このサブスクはNetflixなどに比べると存在感が薄かったが、本作と『マンダロリアン』(2019-)が起爆剤となり加入者が大きく増加。サービス開始から1年4ヶ月足らずで1億人を突破するに至る。
ディズニー帝国快進撃の立役者である一方で、「ドラマも本編と同じくらい重要だからみんな観るんやで〜」という方針が始まったのも本作から。これがMCU凋落の大きな原因のひとつである事は間違いない。今にして思えば、この作品の功罪はとてつもなく大きかったのである。
さて、その肝心の内容はワンダとヴィジョンのドタバタ新婚生活をクラシックなシットコムで描くという野心的なもの。しかも、第1話は50年代、第2話は60年代、第3話からは画面がカラーになって70年代…という風に、ドラマが進行するにつれ映像や演出も現代に向かって進歩してゆくという構造になっている。さらに、そのシットコムの外側では「知覚兵器観察対応局(S.W.O.R.D)」が彼らの動向を監視しており、その物語も並行して描かれてゆくという、非常に込み入った作劇が為されている。
映画をただ引き延ばしただけの様なドラマも多く存在する中、この作品は確かにシリアルでなければ意味が無い。連続ドラマの可能性に挑戦する、その意欲は高く評価したい。
「あれ?ヴィジョンってサノスに殺されたんじゃ?」という観客の疑問への回答は放置され、淡々とコメディが展開される。この日常感が実に不気味で、シットコム特有の外部からの笑い声がそれをさらに加速させる。そして1エピソードにつき1つか2つは必ず不可解で不穏なシーンを挟み込むことで、コメディとホラーのあわいを曖昧にし、一体これは何なのか、次はどうなるのかと観る者の興味を引き出す。謎が謎を呼ぶ作劇は実に上手い。
しかし、終盤になるにつれ、どんどんドラマは“いつも“のMCUに。政府機関の黒幕、スーパーヴィランとのCGバトル、主人公の覚醒と、想定内の範囲に物語は収まってしまった。
MCUのドラマがMCUっぽくて何が悪いんだ!と言われればそれまでなのだが、せっかくこれまでとはまるで違うストレンジでミステリオな作劇が為されていたのに、結局いつもの感じで大団円というのは、勿体無いというか想像力に乏しいというか…。
思うのだが、ヒーローものにおいてヴィランとのCGバトルって絶対にやらないといけないのか?空中浮遊しながらビームの撃ち合いをやられても、あまりにも絵空事過ぎて「それがどうした」としか思えない。これは基本的にはワンダのメンタルについての物語なのだから、わかりやすい悪役を登場させずとも、イマジナリー家族とのコミュニケーションを通して、彼女が自らの過ちに気付きそれを正してゆくという方向で十分お話を纏める事は出来たのでは無いだろうか。正直、この凡庸なクライマックスにはガッカリです。
奇怪なミステリーに安易な落とし所をつけると途端に面白くなくなってしまうという好例。前半の勢いのまま最後まで駆け抜けてくれれば文句無しの傑作だったのだが…。
一応フォローしておくと、エリザベス・オルセンとポール・ベタニーの演技は素晴らしい。毎話毎話、それぞれの年代に沿う様に演技のラインを調整している。これはほとんど名人芸の域である。特に、馬鹿みたいな真っ赤なメイクをしていてもちゃんと観客を泣かせにかかるポール・ベタニーの演技力は凄まじい。過去のMCU、そして『X-MEN』シリーズから懐かしいキャストも再登場しているし、役者を見るというが本作の正しい楽しみ方なのかも知れない。
