「構成に難有り、情景描写が美しい」メタモルフォーゼの縁側 emanonさんの映画レビュー(感想・評価)
構成に難有り、情景描写が美しい
腐属性の高校生と、老婦人が58歳の年齢差を乗り越えてBLを通して交流するというお話。マンガが原作、未読。
マンガをそのまま実写化すると様々な齟齬が生じることが多い。其れを如何に処理していくのかが創り手側の腕の見せ所なのであるが、本作ではそこが甘いと感じた。
宮本信子演じる老婦人が、フラリと立ち寄った本屋でBLモノのマンガ単行本を手に取り、購入する所から物語が紡がれていくのだが、ここが甘い。老人は保守的な生き物である。新しいモノを貪欲に欲することは余程の事で無い限り有り得ない。ここで物語後半で描写される、老婦人が貸し本少女漫画に傾倒していたと云うバックグラウンドをインサートすべきであった。其れが無い為にお話に説得力が無い。惜しい。
淡々と紡ぎ出されていく物語は、まるでゆったりと、たゆたう舟に乗っているかのようで心地よい。インサートされる情景カットも美しい構図で、創り手のセンス・オブ・ワンダーを感じ取ることが出来る。主な舞台となる老婦人の住まいも都会の中で佇む古ぼけているが懐かしさを感じる住宅を見つけ出して撮影されており、説得力がある。
しかし、お話が転がりはじめるまでの時間
が永く、コミティアに出展する展開もさほどの盛り上がりを見せない。当然である。
ローバジェットの作品で有明ビッグサイトを使い、コミティアを再現出来るはずもなくオミットされているからだ。辛うじて野外ベンチの撮影許可を取り描写されている。ここら辺も、もう少し工夫が欲しかった。
演者達のことに触れよう。腐属性の高校生を演じるのが、演技巧者の芦田愛菜さん。この方は難関校への受験勉強の合間を縫って、本作に出演しているのであるが、如何せん“華”が無い。これは痛切に感じた。お顔立ちは美しい。しかし、フィギュアが幼すぎるのである。地味なコスチュームプレイが其れを更に際立たせてしまっている。監督はライティングやアクション等を駆使し美しさを切り取ってはいるのであるが如何ともし難い。辛辣ではあるが演技力は、他の追随を許さないモノを持って居る方なので、将来も俳優業を続けるのであれば姿形のデメリットを補える作品を選択して欲しいし、もっと、彼女のアクトが観たいと思う。
老婦人役の宮本信子。この方は若い頃から美形を売りにしていた俳優では無く演技派なのであるが、流石に昔の俳優は凄い。華があり、お美しい。少しの所作にも精密な計算が施されており、魅せられる。
脇を固める俳優陣は自分には見知った顔が居らず、特筆すべきことは感じなかった。
BLモノを扱うので有ればもう少し、刺戟的なエピソードがあっても良かったのでは?
と最後に付け加えておこう。佳品。