劇場公開日 2022年6月17日

「疾走する芦田愛菜に感銘。」メタモルフォーゼの縁側 TOMOさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0疾走する芦田愛菜に感銘。

2022年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 平凡な女子高校生と一人暮らしの書道家の老婦人が、書店で手に取ったBLものを絆にどんどん、近づいていく。前半は、大仰なやり取りが続く。
 老婦人も幼い頃、少女漫画家にあこがれていたことを契機に、少女は、漫画を描き、東京ビッグサイトで行われるフェスにブース出展する方向で一気に流れていく。
 女子高校生の初めて画筆を手に取るときめき。書道教室の弟子の印刷屋で本格的なオフセット印刷でしつらえようという提案を受け、凝固する。普通の高校生の表情を、自然に表現してしまう、芦田愛菜は練達の士だ。
 何度も、繰り返される真正面からのショットに浮かぶ芦田愛菜は、美人ではない。どこにでもいる普通の高校生の表情だ。普通の子が普通のままで漫画を作って、フェスに出店しようとする。そしてその結果。漫画家への道が開けるわけではなく、また、普通の日常が戻ってくる。何も変わらず、どこも成長しない。ラスト、縁側から駆け出していくうらら。メタモルフォーゼは起こらなかった。
 「メタモルフォーゼしなきゃいけないのか?」 「成長しなきゃいけないのか?」脚本家岡田惠和の代表作「ひよっこ」のヒロインも、成長などしなかった。若い人に成長を求める社会が、人を追い込んでいないか。同じ問いかけが聞えてきた。
 逡巡、戸惑い、驚愕、畏れ、原稿を前にたじろぎながら、女の子はやたら疾走する。背筋はピンと伸び、両手を機敏に振りながら。走り抜ける芦田愛菜が、全編を突き抜けていく。
芦田愛菜は、きっとスポーツ選手になってもいけるんじゃないか、力強いフォームを見ているだけで心地よくなってくる作品でした。

TOMO