「原作者がキメてくれた栄光のSLAM DUNK」THE FIRST SLAM DUNK 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
原作者がキメてくれた栄光のSLAM DUNK
先日亡くなった鳥山明さんの『ドラゴンボール』と並んで、少年ジャンプを代表する作品。
本作を読んでバスケの道を志した人も多い、バスケ漫画の金字塔。
原作漫画もTVアニメも1996年に終了してから、実に26年ぶりの新作映画。
ブランクが空き、ほとんど宣伝ナシで、果たしてヒットするか未知数だったが、ヒットではなかった。国内歴代興行ランキング13位となる興行収入158・6億円の“メガヒット”。作品も主題歌も話題に話題になり、社会現象。未だ全く衰えぬ根強い人気に驚かされた。
ジャンプを読んでいたあの頃、『SLAM DUNK』も読んではいたのだが…、ファンの方々からお怒り頂く事承知ではっきり言ってしまおう。
原作漫画もアニメも最後まで読んでいなかった。確か、三井がバスケ部に復帰した辺りで…。
つまらなくなったとか興味を失ったとかじゃなく…。気付いたら読まなくなっていた。
なので、『SLAM DUNK』がメッチャ好きとか熱く語れるとかじゃ全然無く。少しかじった程度。
それでも登場キャラや概要は知っている。桜木、赤木(ゴリ)、流川、三井、リョータ、木暮(メガネ君)、春子さんに彩子さん、安西先生…しっかり覚えていた。
ほとんど宣伝ナシでの公開。直前になって主題歌や新声優陣が発表されたくらい。にしても木村昴はあれにこれに売れてるね~。
ストーリーについては明かされず。
原作のどの部分の映画化…? “FIRST”だから桜木がバスケを始める最初から…? リブート的な…?
同じ“試合”はしなかった。原作漫画の最終エピソード、TVアニメでは映像化されず、ファンから映像化が望まれていた“山王戦”。
インターハイ出場。
湘北の前に立ちはだかるは、絶対王者の山王。
勝算ナシ。誰もが山王勝利を確信するアウェイ。
試合開始。
先制点を決めたのは、意外にも湘北。しかも桜木。
序盤は拮抗。前半戦は湘北リード。
後半戦。徐々に山王が王者の貫禄を見せつけ始める。
次第に苦戦。遂には24点差まで開く。
やはり山王に勝てる見込みはないのか…?
この山王戦の現在パートと交錯して描かれる過去パート。
それを担うのは、何とリョータ…!
『SLAM DUNK』って桜木主人公じゃなかったっけ…?
リョータ主人公は意外性を突いたが、これが功を奏した。
赤木のように頼れるキャプテンでもない。三井のように一旦辞めてから返り咲いた訳でもない。流川のようにエースでもない。桜木のように異端児でもない。
体格も小さい。が、時期キャプテンと言われる実力者。スピードを活かしたプレイやテクニックはピカイチ。
何よりガッツとバスケ愛…。
それには、ある生い立ちがあった…。
沖縄生まれ。父親を亡くし、母親、兄、妹の4人。
「俺がこの家のキャプテンになる」と勇気付ける兄ソータはミニバスケのエースでもあり、リョータにとっては憧れの存在だった。バスケを始めたのも兄のようになりたくて。
だがある日、ソータは海難事故で帰らぬ人に…。
悲しみに沈む遺された3人は神奈川へ引っ越し。
母親との仲はぎこちない。心に空いた穴を埋めるようにバスケに打ち込む。
やればやるほど兄に追い付けない自分を痛感。
バスケの名門・湘北へ。小生意気なリョータは部の問題児。熱血漢の赤木とはソリが合わず。
退部していた三井と一悶着。
自分のプレイ、スタイル、何故自分はバスケをするのか、リング上で思い悩む日々。
自問自答しながら、そこに自分なりのバスケを見出だしていく…。
リョータの過去って原作にあったっけ…? これは本作の新設定。ベタではあるが、このドラマチックな背景がドラマパートを強くしている。
最後の“母上様”への手紙にはリョータの全ての思いが詰め込まれている。
リョータのみならず、リング上で自分自身と闘う者も。
赤木。厳しすぎる性格。山王キャプテンに苦戦。全国大会はただ自分が皆に押し付けているだけなのか…?
三井。有名なあのエピソード。挫折し退部し、バスケを憎んだが、心の何処かではバスケをしたい…。俺は、誰だ…?
過去の赤木との確執、中学時代三井と会っていた…など、新エピソードも織り込む。
劣勢の山王戦。
安西先生が切り札を投入。桜木のリバウンド。
自称天才の暴れっぷりがチームに活を入れる。
鼓舞され、再び山王に食らい付く湘北。点差が縮まっていく。
本来主人公の桜木の破天荒さもしっかりそつなく。
バスケかぶれの常識は通用しねぇ。シロウトだからよ。
俺の栄光時代は、今だ。
試合の終盤で選手生命に関わるほどの怪我を背中に負ってしまうが、それでもリングに立つ。超人か!
流川のみドラマ描写少なかった気もするが、そもそもクールで無口。ちゃんと役割は請け負っている。桜木とのライバル関係も。
チームメンバーは仲良しこよしじゃない。口を開けばいがみ合ったり、衝突も。しかしいざ試合に挑むと一丸となって。こういうの、熱いよね。
山王もただの立ちはだかる敵ってだけじゃない。こちらも各々キャラが立っており、エースの沢北。
試合前に神頼み。俺に必要な経験を下さい。これ、響いたね…。それも大事な経験。
現在の山王戦と過去のリョータのドラマ。
下手すりゃ話の流れや試合の高揚を止めてしまう恐れあるが、巧みにリンク。
苦戦と苦悩。活路と葛藤。勝利への希望とバスケをやる意味。
原作漫画の途中を映像化しているのに、初心者でも話に乗れない事は全く無く、テンポも引き込まれるほどいい。
絶対王者に挑む、湘北メンバー一人一人のドラマが出来るほど個性立っている中今回リョータをメインに据えた見易さ。その構図や構成もはっきりしている。
まるで山王に挑むかのような強固な壁。アニメで何処までバスケを描けるか…?
以前のような手書きアニメーションじゃない。CGでもない。
原作漫画に色が付き、2Dと3DCGとモーションキャプチャーを駆使した斬新な映像。
キャラは呼吸一つ一つまで躍動感たっぷりに動き、試合シーンの白熱さと臨場感はスポーツアニメ史上最高レベルではなかろうか。本当に手に汗握る…!
無音、スローモーション、試合最終盤の秒針のみ…あらゆる演出法を駆使して。
ただバスケアニメを見ているというより、本当のバスケの試合を見ているかのような錯覚にもなった。
盛り上げる楽曲の数々。昔のアニメの曲も最高だが、今回の曲も。主題曲“第ゼロ感”の高揚感とカッコ良さはしびれるほどで、今後バスケのスタンダードになるだろう。
嬉しいファンサービスも。まさか安西先生のあの名台詞がまた聞けるなんて…!
これら全てが素晴らしいチームプレー。
『SLAM DUNK』かじりの私でも大変面白く見れた。やっぱ復活上映の時でも劇場で観に行けば良かったかな…。
原作者・井上雄彦が自らメガホンを撮り、こだわりが活かされ、最高の試合を魅せてくれた。
多くのファンが望んでいるのは、続編だろう。“FIRST”だし、“SECOND”を…。
山王戦は原作最終エピソード。次あるとすればその先、オリジナルエピソードになる。
山王戦以上のものが描けなければ続きは描かない、と井上氏。
全国大会への道半ばでも、最高の花道。
夢の達成までを見せるんじゃなく、俺たちはイケる!…試合を諦めず、いつまでも挑み続ける。
今はただただ、“栄光のSLAM DUNK”に浸っていたい。