「スラムダンクはリアルに“試合”を描いても魅せられる作品だった。」THE FIRST SLAM DUNK ゆちこさんの映画レビュー(感想・評価)
スラムダンクはリアルに“試合”を描いても魅せられる作品だった。
宮城のパスや切り込むスピード感、沢北や流川の格の違いが分かる動き…最っ高でした。何より興奮したのは「試合」そのものです。
原作ではモノローグと共に動いていたボール。映画ではバスケットの試合が真っ向勝負で描かれた。これらが非現実的な動きで楽しませるアニメ描写ではなく、極めてリアルな動きの中でアニメーションが活きている。
「リアルに“試合”を描いても魅せられる作品だった」ことにもっと賞賛の声が上がってもいいのではと思いました。あと純粋に、単純に、彼らが実写のような凄まじいクオリティーで動いている山王戦が見れて凄く嬉しいです。
裏を返せば、積み重ねてきた「意味を持つ」ボールの動きに付随していたモノローグは自分で補完しなければならならない。また漫画を読まなければと自然に思わせる構造と捉えると、上手いなと思います。こっちで補完さえできれば何の問題もないし、むしろ楽しかったです。
表現したいことが明確で、いさぎがよく、この作品は「原作の映像化」を目的とした映画ではない。その決断含めかっこいいと思える作品の作り方でした。
初見層は、山王戦だけを観てもここへ至る過程を知らないため感情移入できません。
「宮城の過去を振り返る物語」と交互にすることで、少なくとも宮城に気持ちを乗せて「試合」を描いた山王戦に入り込むことができる。試合と回想がぶつ切りになり白けない絶妙なタイミングでの切り替わりも、凡人にできる技ではなかったと思います。
ここも賛否あると認識しつつ、ピアスが存在するので裏設定は元々あった中で、明かされることがなかった宮城のバスケットをする理由が描かれるという面では、既存ファンへのサプライズでありプレゼントでもあった。
強いて挙げるのであれば、スラダンは「徐々に覚醒する流川のプレー」の描写が凄まじい魅力があると思っているので、その点がもっと際立っていてもよかったのになと思いました。
その代わり沢北がNo.1プレーヤーたる描かれ方をしていて、アニメーションとして物凄くかっこよかったです。お調子者っぽい人格も出てこないので、より凄さが際立っていて尚よかった。
「09年に東映アニメーション内に正式にプロジェクトチームができた」のだそうです。実に13年。
途中で諦めや妥協が生まれても不思議でない年月を経て制作されていること、心を動かしてもらった一人として重く受け止めたいし、この熱量の作品を観ることができる文化を守るためにも、作品へのリスペクトは必要なことで、批評には品性を持ちたいなと思います。