「すばらしい体験をした」THE FIRST SLAM DUNK ボヤッキーさんの映画レビュー(感想・評価)
すばらしい体験をした
時代も人間も変わっていくのがあたりまえであり、本作をみずから監督した原作者でも、それは同じである。
連載時、テレビアニメ放映時に諸般の事情や技術的な問題で表現できなかったことが、令和の今できるようになり、過去の作品をアップデートしたいと思うのはクリエイターとして自然なことだろう。
そのおかげで過去の物語と整合性がとれなくなったり矛盾が生じることなどは、些末な問題である。
とはいえ、本作の主人公に据えられた宮城リョータをはじめとする湘北メンバーの人間関係や過去などに大きな違和感を感じることはなかった。
単行本で数冊におよぶ激闘の最終戦を2時間の映画におさめるのである。
とうぜん全てを見せることはできない。
苦渋の決断でカットしたシーンは数えきれないだろう。
身を切るように原作のエピソードを削ぎ落とした結果、すばらしくスピード感と緊張感のある映画に仕上がった。
終盤の攻防などはまさに息を飲む、一瞬とも永遠とも思える没入感と、全てが終わったあとの脱力感。
これまで鑑賞した映画の中でも稀有な体験をしました。
これほどの映像を見て、なにも感じずに酷評をしている人がいるのは信じられない。
過去にとらわれて新しいものを受け入れられないのは勿体ないし、哀れだとも思う。
今作で描かれた宮城リョータについても、彼はこんなキャラクターではないと批判する声がある。
しかしそれは今まで語られなかっただけで、作者の中にはずっとあった、あるいは冒頭に述べたようにアップデートされた宮城リョータ像なのだろうし、他のキャラクターについても語られなかった逸話が出る度に「違う」と批判を続けるのだろうか。
世の中には、名作と言われながらもアップデートされずに忘れられていく作品が無数にある。
そんな中、最高の形で新しいものを見せてくれたスラムダンクには、感謝しかない。ありがとう。