「映画的表現とは何かを問いかける良作」THE FIRST SLAM DUNK TTMさんの映画レビュー(感想・評価)
映画的表現とは何かを問いかける良作
ジャンプリアタイ世代で当時熱狂的に読み、コミックコンプリートしているファンです。
ストーリーについて、宮城を主軸にしたことに驚いたが、確かに原作では山王戦のキーマン宮城については余白が大きかったことに気付く。
宮城家にまつわる悲しい出来事はありがちなアングルではあるが比較的ライトだった宮城リョータというキャラの山王戦における覚悟や成長に深みを与える良い切り口だったと思う。
この視点で考えると今後桜木や流川、彩子や晴子というあまり過去が描かれていない主要キャラクターの深掘りが用意されているのかも?とDisneyスターウォーズドラマの戦略が想起されやや不安になる。ファンにとって公式がキャラクターの余白を埋めるというのは喜びにも絶望にもなる諸刃の剣なのだ。
バスケ描写の徹底的なリアル化には感涙もの。流川や沢北のダブルクラッチは脳内で何度も再生していた動きとバッチり合致していて「コレこそがオレたちが見たかったスラムダンクだっ!」と心躍った。また、登場人物の内面の吐露セリフと最近の日本の映像表現にありがちな説明セリフを徹底的にカットしたのは井上雄彦の正しい判断だと思う。リアル路線では当然晴子や桜木軍団はコートサイドに乱入してこないし魚住は包丁持ってコートに侵入しない。そして「ヤマオーはオレが倒す by天才桜木」の荒唐無稽さが際立つ効果も高まる。際立たせるべきは「大好きです。今度はウソじゃないっす」であるという議論はさて置き、リアリティラインがブレないことこそが映画のミソなのだ。
加えて、大胆なエモいセリフの全カットは映画的表現とちゃんと向き合う覚悟であり好感。そりゃ私だって「このチームは最高だ」を聞いたら涙腺緩むだろう。が、映画はセリフで伝えるのではない。映像で伝えるものなのだ。映像とは空の雲、風に揺れる草木、海原の波飛沫。そして登場人物の表情であり、息づかいであり、瞳孔の拡縮なのだ。心情の示唆さえあれば勝手に脳内補完してしまう熱狂的ファンに依存した演出なのは確かで、大切なシーンが予備知識のない初見者には薄っぺらなシーンになってしまう点が許せない人達がいることは否定できないが、それも製作側の確信犯だろう。ファンと初見者の二兎を追うべきではない。
敢えて苦言を呈すのなら宮城・三井の少年時代のエピソード加筆。このせいで三井と宮城の関係が不可思議なものに変わってしまった。ファンに向けた作品でファンにパラレルワールドを植え付けるべきではない。あと、あまり言いたくはないが花道の声への大きな違和感が拭い去れない。試合終盤の花道の「返せ」というセリフが浮きまくってサブくなってしまっていたのが残念だった。
「あのシーンがない」「あのエモいセリフが切られている!」といった批判もあるようだが、映画的表現にこだわった実に井上雄彦らしい演出だと思うので私は完全肯定したい。
二兎を追うものは一兎も得ず。
現状では間口が広くて奥が深い誰からも愛される作品を作れるのは地球上には天才集団マーベルスタジオしか存在しない訳だし、本作は一兎をキチンと見据えて作った素晴らしい映画です。
リアリティラインがブレないことこそが映画のミソ。
映画はセリフで伝えるのではない。映像で伝えるものなのだ。
心情の示唆さえあれば勝手に脳内補完してしまう熱狂的ファンに依存した演出
製作側の確信犯
ファンと初見者の二兎を追うべきではない。
正に仰る通りですね。素晴らしいレビューをありがとうございます♪
「返せ」は自分も違和感ありました。
個人的には、痛みに耐えながら、絞り出すように掠れた声でっていうイメージだったので。
でも、それを補って余りある良さがありましたよね。