「試合に参加してるような臨場感」THE FIRST SLAM DUNK コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
試合に参加してるような臨場感
「よかったな」「面白かった」
しかなかったです。
山王工戦を初映像化。
原作者の井上雄彦氏の絵のイメージのままのキャラが、ちゃんとバスケしてる、動いてるってだけでもすごいと感心したし。
モーションキャプチャーしてるのかもしれないけど、動きの表現が素晴らしい。
また、プレイヤーの一人として試合に参加してるような臨場感のある画面作り。
試合はこういう動きや位置関係だったのか、こういう設定でキャラに深みを持たせたのか、という驚きもあったし。
漫画家・アニメーターの永野護氏が監督した『花の詩女 ゴティックメード(GOTHICMADE)』みたいな、「原作者の頭の中では、こんな事を考えていた」という内容のビジュアル化に特化したような作り。
たぶん、スラダン後の『リアル』『バカボンド』などを経て、井上氏の頭の中に構築された「リアル表現」を実際の映像に落とし込むと、こうなるんだろうと。
物語を貫く主人公が花道・流川コンビから、別キャラに変更。
この交代も、花道が主役ではリリアルから遠いギャグ・コメディのテイストが多くなってしまうのを、本作では排除するという決意だったのでしょう。
なにより漫画原作はあれで見事に完結していて、表現は「やり切った感」があるだろうから、あれをそのまま映像化する意味はないと原作者=監督は考えたのだと思います。
試合の最中に回想を挟む演出だから、試合のスピード感は少し削がれるものの、それがプレイにどんな意味をもたらすかまで考えたら、これしかないって作り。
見ず知らずの隣席・前の方の女性たちが、ハンカチを取り出して号泣してるのが印象に残りました。
私も、試合ラスト周辺の作画と音の演出に唸りつつ、少し涙ぐんだりして。
これを見せられたら、そりゃキャラの絵が入ったグッズが欲しくなって、売り場に殺到するでしょう。
画面と、劇場に来ていた人たち…とくに女性たちから受けた熱量は、『鬼滅の刃』『君の名は。』が上映終わって明るくなった瞬間を思い出しました。
そんなレベル。
ただ、試合はわりと原作の名シーンだけで繋いでいるから、漫画・テレビアニメ未修の人には不親切なので、新主人公以外の各キャラの説明などは大幅に省かれていて、そこは覚悟した方がいいかも。
さらに、その名シーンも新主人公目線で重要となるところだけ、という意図ある選び方で作ってあります。
山王工戦の前半部分のエピソード(たとえば河田弟の説明とか)はバッサリ切ってて。
映画だけのオリジナルエピソードもありました。
これは連載から時が流れて、山王のモデルになった能代工業から田臥勇太がNBAのフェニックス・サンズ、宮城の明成高校→アメリカのゴンザガ大学からワシントン・ウィザーズに行った八村塁、トロント・ラプターズで現在活躍する渡邊雄太…
日本人プレイヤーがNBAで活躍する時代になり、昔のままの話だけで終わらせたくなかったんじゃないかと思いました。
……だから、原作&テレビシリーズが終わった二十数年前から待ってるうちに、拗らせていた人には「私の思う・願う『SLAM DUNK』はこうじゃない」となりやすいかも。
「なんであのエピソードがないんだよ」となりがちかも。
特に推しキャラがいて、その推しキャラのシーンがカットされてしまった思い入れが強い人にとっては、駄作レベルと決めつけて激怒するかもしれません。
その危険があるということは付け加えつつ。
繰り返すけど、私は好き。
面白かった。