「井上雄彦的「誠実さ」に溢れた映画」THE FIRST SLAM DUNK BDさんの映画レビュー(感想・評価)
井上雄彦的「誠実さ」に溢れた映画
世代ど真ん中の40歳。
あの頃小学生だった私は「マンガスラムダンク」にはハマれたけど「アニメスラムダンク」は0.7掛けくらいの気持ちで見てました。
あまりにも美しく、抒情的で、行間を読ませ、それ自体で完結している静止画のスラムダンク。アニメ版はそれに対して、その静止画の口や腕がちょっとずつ動いてるような、なにやら不完全な作品のような気持ちを子供心に抱いてしまっていたのです。
今回、何をするのかは知らないが、30年も経った今、映像的課題をどう解決するんだろう?と言うのがこの映画に接するに当たっての疑問。現代的なテロテロウネウネしたモーションキャプチャーチックな奴であれ再現するのかなぁ?できるの?なんだかなぁ。
ところが見てビックリ、さすが脚本監督井上雄彦ご本人。テンポ、音楽、無音、ズーム、これらの組み合わせでほぼほぼ完璧にエキサイティングな試合を演出していました。(これは「再現」ではなく「リビルド」だと思う)言葉には表せない、音楽でいう「ダイナミクス」に当たる部分がものすごくしっかり演出されていて、見ててストレスや「あーこれどうなんだろ」っていう共感性羞恥を感じない。この作り込みに対する賛辞を送りたいというのが一つ。
それともう一つ、井上雄彦的「誠実さ」ってあるよなぁとすごく感じた映画でもありました。「ここでこれ言っちゃヤボだよなぁ」ってセリフが全然ない。
特に桜木関連ですが、宮城が主人公ということもありますが、ちょっと押し出しが強すぎるというかパンチがありすぎる名セリフ、カットしてんですよね普通に。さすが作者笑って感じですが、でもだからと言ってダイジェスト版のようにはなってない。この辺の力加減の巧みさをすごく感じました。
宮城軸の新エピソードがストーリーとしては中心に置かれていて、まぁスジ自体はそんな大した話じゃないし「これ要る〜?」と言う人も現れておかしくないと思うんですが、これもそんなに嫌らしくない。山王戦に対する視聴者の記憶の積み上げに対して、あまりにも薄くならざるを得ないエピソードだと思うんですが、違和感なく溶け込ませていました。この人、読み切り漫画とかのちょっとしたエピソードなんかも全然嫌らしくないですしね。
その辺、根本的には技術とかじゃなくてもう「気遣い」だと思うんですよね。一言で言うと、気の利いたリメイクだったと言う感じなんです。ファンをがっかりさせないように(でも今らしく楽しい映画に)という作り手側の誠実さがしっかり出ていた良作だと思います。
コメントありがとうございます〜!
いいレビューたくさんお持ちですね!フォローさせていただきました。
そうなんですよね。アウトプットされた「原作」を基準に作っているのではなくて、「井上雄彦の中にあるスラムダンク世界」に原作とは別角度から焦点を当てた作品という印象がすごくあって、だからこそ「井上雄彦的リアリティー」のラインがある。
彼からすると「原作」もその世界の一つのアウトプットに過ぎないからこそ、「今回は『今度は嘘じゃないっす』みたいな話じゃないじゃないっすか。カットしました」という話が「理」として通用してしまう凄みを感じました。原作者というか、唯一の「スラムダンクの目撃者」なんですよねこの人。
「リビルド」「ダイナミクス」「誠実さ」「パンチがありすぎる名セリフのカット」
仰る通りですね。良い分析&レビューをありがとうございます♪
リアリティラインの一貫性が本作の魅力の一つになっていると感じます。
どんな名場面、名セリフであろうともそこを崩すものは徹底的にカット。この潔さが井上雄彦の凄さだと思いましたね。