「誰にでも訪れる老後」ファーザー からあげクンさんの映画レビュー(感想・評価)
誰にでも訪れる老後
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認知症を患った老人の視点で物語が進行する。
老人の脳内では過去も現在も場所も全てがぐちゃぐちゃに再構築されている。
最後のシーンのみが老人がたった今身を置いている現実であるのだが…
救いがない。
我々若者からみた認知症の老人は、何度も物忘れをかまし、ボケて、ふざけているかの様に見えるかもしれない。しかし、それは物忘れのように単純な問題ではなく、自分の存在すら揺るがす様な過去の記憶の崩壊が起こっている。
自分の名前さえわからなくなり、不安を吐露し涙を流すアンソニー。
「葉が落ちていく様だ」
葉が落ち、枝が落ち、豊かさを失い、幹のような肉体しか残らない。
その寂しさと不安はどれほどのものだろう。
アンソニー・ホプキンスのすばらしい演技は、演技と感じさせないリアリティがあったし、やはりよく知った顔の、怒らせたらヤバい人(過去作の劇中イメージ)がセーターを一人で着れないような弱々しい老人になっていることに、劇中とは分かっていても寂しさを覚えた。
高知能偏屈老人が似合うくせに、子供のように直情的に泣く姿には胸が打たれて私も泣いてしまった。
本作は映画でなければ出来ない表現、言い換えるなら映画に出来るフル表現方法を活用して撮られているのだな、と。小説や漫画では決して同じ気持ちにはならなかった。
素晴らしい映画だった。
この一言に尽きる。
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