「記憶の構成、危うさ、そして音楽の美しさ」ファーザー お転婆さんさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶の構成、危うさ、そして音楽の美しさ
他のレビューでも指摘されているけれど、認知症の患者の眼に、毎日がどう映っているのかが、ミステリーのトリックのようにほんの少しのヒントを含みながら危うくつなげられていく。
でも、人間の記憶ってほんとうはこんなふうにあったかどうかわからない思い込みで事実の隙間を埋めて成り立っているのかも、ね。
監督兼原作者のゼレールは、自分のオリジナルの舞台脚本を、わざわざアンソニー・ホプキンスに当て書きをし直して映画に仕上げたのだそうだけれど、当のホプキンスは自分の父親を真似て演じ、そのためとても「楽だった」そう。なんとも言えないオチがついた。
音楽が素晴らしい。まだ理性を保っているうちは、アンソニー(役名もこれ)はパーセルの『アーサー王』のやうな、なかなかに通っぽいオペラばかり聴いている。
でも次第に、それぞれの事実をつなぐ記憶が途切れてくると、いつの間にか音楽はミニマル・ミュージックのような、静かに抑えたピアノの響きだけになっていく。
作曲はルドヴィコ・エイナウディ。微かな音が、あちこちから湧いてくる記憶の糸のように繊細に響くピアノ。それからデゥィド・メンケ。病院(施設?)の現実をあらわすかのような冷たい、硬質な響きの音。
2人とも名前は初めて知ったけれどかなりのアルバムが配信されている。聴くのが楽しみ。
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