「自分という概念の喪失。」ファーザー はるたろうさんの映画レビュー(感想・評価)
自分という概念の喪失。
終始大混乱で鑑賞。ほぼ頭の中がぐちゃぐちゃでした。誰が実在の人物で誰がアンソニーの見ている幻覚なのか。誰の言葉が真実で誰の言葉が妄想なのか。その答えが見つからないまま時間だけが過ぎてゆく。まさにアンソニー同様今、何時だ?と聞きたくなってしまうような気分だった。
そしてこの何が何だか訳が分からない感覚こそが最大のテーマであり見所でもある。認知症を発症したアンソニーの視点から描かれる日々を私たち観客も疑似体験することになる。
壁に飾られた絵画。盗まれた腕時計。繰り返される出来事。噛み合わない娘アンとの会話。何かがおかしい。でも何がおかしいのか分からない。認知症は劇的に改善することはない。それ故そちら側の世界の詳細を体験者から知ることはできない。それなのにこの妙にリアルな体験はなんだろう。
父親の変化を何とか理解しなくてはともがくアン。その葛藤や絶望感はいつの日か私自身が抱える問題かもしれない。更に言えば自分が認知症にならないなんて言い切ることは誰にもできない。
自分という概念の喪失。これ以上の恐怖はこの世にないかもしれない。
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