「見なきゃわからない恐怖…」ファーザー JYARIさんの映画レビュー(感想・評価)
見なきゃわからない恐怖…
いや、予告よりも大分ハードな映画でした。
まず、
認知症側と介護する側どちらの味方でもある
描き方に好感が持てる。
そして、どちらの気持ちも痛いほどよくわかる。
これ、最初の10分くらいかな?で
最初の衝撃が訪れるんですけど、もうそこから
痛くて痛くて。
今までって例えばジュリアンムーアの
「アリスのままで」とかって、こちらはアリスを見守る側として、同情しか出来なかったんですが、この作品ってそれだけでは無くて、認知症ってこういうことだけど?っていうのを画期的に分かりやすく、しかも納得のいく描き方をしている。それで観客は、一気に何が起きるか分からない緊迫感、ある種ホラーやサスペンスを見ているかのような感覚に陥る。当事者は本当にこれがリアルに、日常的に起きてるんだから、それはキツイよなあ。
映画では、演じる役者が全く別人になっている訳だけど、それを見るアンソニーの驚き方とかって、本当に認知症の人のそれだよなー…
彼の演技の幅もものすごくて、上機嫌に子供のようにはしゃぐ時もあれば、嫌らしい老人の時もある。そして最後には赤ん坊のように、介護士に泣きつく。
このシーンでは、『八月の家族たち』のラストでジュリアロバーツに置いて行かれて、移民である家政婦に泣きつくメリル・ストリープを思い出しました。ここまで、人間が生きている間の際まで演じ続ける役者魂に、泣きました。
あと、オリビアコールマン演じるアンの苦悩にも非常に移入しやすく作られてる。介護問題に加えて、途中で姉妹で比較されて、人前でなじられてる感じとか、本当に厭なシーン作るなあと思ってしまった。あの泣き出しそうな時のオリビアコールマンの表情たるや。あの口の動かし方。たしかに、よく見る。けどそんなに自然に、演じられる人、そういない。
アンソニーホプキンスの相手役として、まさに適役な素晴らしい女優さんでした。
あと、イモージェンプーツ。彼女が出てくる度に少しだけ場が明るくなるのがちょっとした救いでしたな。太陽のような。
本作も実は、「信頼出来ない語り部」スタイルを取りながら、我々を錯乱させているのではと思うのだけど、私自身その形式がだいすきすぎるなと改めて感じました。「ガールオンザトレイン」とかすき。本作はそれに加えて、時間のトリック?しかけ?まであるし、部屋がコロコロ変わるのも、もはや恐怖でした。もう制作すること自体が難しそうな凝った映画であります。
個人的には、まだあの父と娘ではなく、いわば孫にあたる立場なので(今のところ)、祖父母と両親どちらの苦悩も想像して胸が熱かったです。家族との時間の重要性を感じたというか…。
で、それと、将来自分もこの娘の立場になるんだなあ、そしてもっと将来、この父の立場になるんだなあと思うと、想像を絶する怖さに襲われました。本当に怖い。だから、この映画はあれですね。本当に何段階にも、怖さが重なる、ホラー映画より怖い映画ですね。
戯言
1、最初、編集の人名がヨルゴスランティゴスに見えて、すごいびっくりしてたんだけど、よく似た名前の別人でした。
2、今作は認知症ってこうですよ?ってのを、当事者目線で描くことで、現実社会でその周りにいる観客の認識を変えるってことをしていると思うんだけど(認知症の方に優しくできるとか)、それと同じ要領で、同性愛とかも、理解をしてもらえるような描き方が出来ないかなと思った。
どうしたら、理解、認識、してもらえるだろうか。もちろん、主人公はものすごく苦痛を伴うだろうけど…
追記
私がこの先、このような生活を送るようになれば、「50回目のファーストキス」のように毎朝自分にビデオを残そう、、と思ったけど、それでも駄目なのかな、、