劇場公開日 2021年5月14日

  • 予告編を見る

「全世代に響くであろう“老い”についての物語」ファーザー 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0全世代に響くであろう“老い”についての物語

2021年5月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

ロンドンで暮らす81歳のアンソニーと娘のアンの体験型認知症映画。

これは素晴らしかった。
アンソニー・ホプキンスの主演男優賞も納得の、傑作でした。
予告では感動的な話のように思えますが、ある意味ホラーですよね。
老いるということの恐ろしさ。高齢者に襲いかかる孤独。
そういったものがまだ若い自分にも分かりやすく伝わってきました。

何より、ものすごく共感できる。
アンソニーは自分の祖父母にそっくりでした。
超高齢化社会の中で、今やほとんどの人が経験せざるを得ない親の老化、もしくは自分の老化。
現在、うちも祖父母を親が介護していますが、ここまで物忘れが酷くなったわけではない。
ただ、これの一歩手前くらいで、アンソニーのクセの強さは祖父そのもの。
機嫌が良い時は良いけれど、何か気に入らないと完全に決めつけて悪口を言ったり、無視したり。
母から話を聞く程度ですが、いずれは自分もその立場になるんだと思うと、本当に辛くて悲しくて…
ついこの間まで、他と比べるとかなり元気なおじいちゃんだったのに、と。
きっと劇中のアンソニーも、急に老いが始まったんでしょう。
だからこそ自分でも老いたことを認めたくない。
心の中では現役時代のつもりでいる。
自分の抜け落ちた記憶を無意識的に継ぎ接ぎストーリーで補い、何かあると決めつけて周りの人を困らせてしまう。

映画の構成がとても上手くて、一つの事柄が何度も繰り返されたり、全く違う人物が出てきたり、パリ行くっていったり、ロンドンに残るっていったり、観ているこちら側が頭ごっちゃになる。
本当に最後のあのシーンまで、何が本当で何がアンソニーの頭の中なのか分からない。
でも、最後のあのシーンの伏線回収(といって良いのでしょうか?)で、なんとなく謎が解けました。
介護する側もされる側も泣きたくなる。
でも、誰も悪くない。
介護をされている方々はもちろん、それを職にされている方々には本当に頭が下がります。
自分の親ならともかく、他人の面倒を見るなんて、正直私にはできません。
今、実際に若い自分でも、若いと思っている自分のことを信じられなくなる恐ろしさがひしひしと伝わってくる傑作、いや、怪作でした。

唐揚げ