「ディオールのお針子さん(超ベテランとひよっこ)」オートクチュール 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
ディオールのお針子さん(超ベテランとひよっこ)
オートクチュールとは一点物の高級仕立て服のこと。
ディーオールのスーツは1着で300万円もする。
ディーオールのロングドレスは最低で2000万円とか
3000万円するそうだ。
オートクチュールドレスは伝統工芸の芸術品。
過去の遺物かと調べると、需要は今でもかなりあるとか。
想像するに、
超絶お金持ちセレブのウエディングドレス、お色直しの衣装、
それに王侯貴族のローブデコルテとか?
映画祭のレセプションなどで着られるのだろうか?
シルク、オーガンジー、タフタ素材のドレスの制作。
素材自体が希少ですし高い。
それに人件費と刺繍や手縫の手間賃・・・
高くなる筈。
もちろん原価は10分の1くらいかな?
1針1針心を込めて仕立てる《お針子さん》がこの映画の主人公。
この映画では高齢で引退するディオールのアトリエ責任者の
エステル(ナタリー・パイ)と、
偶然の出会いからお針子見習いになる
アラブ系移民二世の少女ジャド(リナ・クードリ)。
2人の交流から生まれるドラマが描かれる。
導入部分。
ジャドが地下鉄で居眠りする青年から盗んだギター。
そのギターで地下道で弾き語りするジャド。
立ち止まって聴くエステル。
そのバッグをジャドの親友の娘が、ひったくって走り抜けて行く。
バッグの中を確認するジャド。
中には「ユダヤの星」を形どった純金ネックレスがある。
友人に諭されてエステルにバッグを返しに行くジャド。
ここでエステルはジャドの指先を見て、「お針子見習い」に
抜擢する。
ここで2つ驚いた。
1、指先を見ただけで、器用さを見抜くこと。
そして
2、盗んだ娘を隔てなく許したこと。
…………普通、盗癖のある子を採用するかなぁ?
特に2は信じられないけど、身分証(ID)を返したことが大きいのでは?
私も家に泥棒が入りバッグその他、現金入りの封筒を盗まれたが、
運転免許証と健康保険証を隣家の庭に投げ捨てて行った行為には、
なんとなく紛失届けや再発行の手間が省けて
有難い(?)と思ったから。
それにしてもジャドのくちの悪さ、言葉遣いの荒さには驚く。
「ババア」呼ばわりされても、顔色ひとつ変えないエステル。
なんと血糖値が急にあがって入院したエステルが、
実の娘より職場の仲間より一番にジャドを呼んだこと。
この信頼性は何故なのだろう?
監督のシルヴィ・オハヨンはユダヤ系の移民です。
インタビューを聞くと、
フランス人は移民に優しい。
自分を受け入れてくれた。親切にされた。
そして体験談として、オハヨンは再婚した夫の連れ子を愛しすぎて、
実子の娘に憎まれた。
娘は母を捨てて父親のところへ去った。
この体験がエステル像に色濃く影響している。
ジャドもまた、鬱病を傘にジャドを束縛して何ひとつ与えない実母に
絶望している。
貧乏な最下層の移民でも、生き甲斐ある仕事を見つけるチャンスはあるし、
娘に呆れられた母親にもやり直しのチャンスはある。
監督の前向きな考えが、希望あるラストに繋がっている。
気持ちの良い映画です。
しかし半数の若者は、移民だから這い上がれない。
差別や格差は無くならない・・・
そう思っているのも事実です。
ユーロ離脱したイギリスの離脱の理由を、
「移民に仕事を奪われたため」
…………だったと聞いた記憶がある。
(他の複雑な要因も理由もある筈だが、)
フランス映画で白人のパリジェンヌが黒人男性と、
腕を組み堂々とシャンゼリゼを歩いている光景。
よく目にする。
アメリカ人は黒人を差別するけれど、
フランス人は黒人を区別する。
そうも聞いたことがある。
郊外の団地。
その区域が下層移民の収容場所・・・だとすると、
フランス政府は移民のためにマンモス団地を建設して、
移民を優先的に入居させて、隔離したのか?
住む地域により、収入も職業も人種も、判別できる。
この映画はその辺の矛盾を優しい皮肉程度に描き、
声を荒げて叫んだりはしていない。
今晩は
今作はオートクチュールの世界を、あるある感覚で上手く表現したなあと思った作品でありました。
主演のルナ・クードリは”フレンチ・ディスパッチ”で初めて知ったのですが、未見の(けれども、フライヤーもあるし、鑑賞予定作品)”ガガーリン”や“パピチャ・・”(コレ、ミタインデスガ・・。)で主演しており、注目しています。では。