「仕事に生涯を捧げた女性の新しい希望」オートクチュール 梅★さんの映画レビュー(感想・評価)
仕事に生涯を捧げた女性の新しい希望
何もかも捨てて夢中で没頭していたら、いつの間にか誰よりも頂にいて隣には誰もいない。周りの人間は誰もついて来れない。上を目指す者に孤独はつきものだ。
エステルも家庭を顧みずにお針子のの仕事に没頭し、アトリエの責任者まで上り詰めたが職場を追われることになってしまう。人生の全てを仕事に捧げていた彼女に残ったのは“虚無感“のみ。そんな彼女が街角でギターを弾く少女に目を奪われる。
もう一方の主人公、少女ジャド。彼女は移民ということでの差別や自称うつ病の母親の介護と様々なものに縛られており、将来に希望をもてない生活をしていた。
そんな2人が出会う。2人とも本当に口が悪い。罵り出したら止まらない。喧嘩が絶えない。
でも、エステルはジャドのことを決して見捨てないし、自分の娘のように大切に思っている。ジャドの方も、いつもあれだけ罵り合っているのに、他人がエステルの悪口を言うとムキになって止めようとする。
全体を通じてあまり盛り上がったりはしないが淡々と2人の関係性の変化を描いていて叙情的。ディオールのドレスはどれも美しく飽きさせない。“フランス映画らしい“と言うのはこういう映画のことを言うのだろう。
そして、本作では様々な問題が描かれている。
移民、人種、宗教、ジェンダー、貧困、嫉妬による差別。毒親、ネグレクト等の自分ではどうにもできない問題。これらの問題は決してすぐに解決できるような問題ではない。しかし作中を通して、少しずつ少しずつ変化していく様子が描かれている。
残念なところは、ジャドのパッと見ただけで分かる程の天性の素質の描写がほとんどなく、あまり説得力というかエステルが感じた燃え上がるものが伝わってこず温度差を感じた。もっと観客からも分かるようにギターを弾く滑らかな手のアップとか入れてもよかったのかもしれない。
そういえば、ポスターの赤いドレスは作中に出てこなかったな。