「アメリカが介入する意味ってあるのか」アウトポスト 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカが介入する意味ってあるのか
ネットの前評判から、勲章をもらった兵士を礼賛するような映画のような気がして鑑賞を後回しにしていた作品である。しかし鑑賞してよかったと思う。
兵士たちの描写が大変にリアルだ。いつとも知れず、どこからとも知れず銃弾が飛んできて、時には誰かが怪我をしたり命を失ったりする。それがアウトポスト(前哨基地)の日常だ。精神を病まないでいるためにハラスメント行為をし、虐められてやり場のない新兵は麻薬をやり、大酒を飲む。
アウトポストを支配していた空気は、この場所が必要なのか、我々は何をしているのか、任務ってなんだというニヒリスティックな疑問だった。守るべき住民の代表である長老たちは金銭ばかりを要求するし、そのために無関係な屍体まで持ってきて米軍が殺したと主張することも辞さない。そこでさらに疑問が加わる。俺たちは何を守っているのか。
アフガニスタンはイスラム原理主義のタリバンに支配されようとしているのをアメリカが阻止しようとしていまだに交戦が続いているが、国民の殆どを占めるイスラム教徒にとってアメリカは異教徒だ。タリバンの圧政は嫌だがアメリカ人も嫌だ。その雰囲気は兵士たちにも伝わっている。アメリカが介入する意味ってあるのか。
クライマックスの総力戦のシーンはまさに息を呑む迫力である。四方八方から銃弾が飛び交い、迫撃砲やRPGも不意を突いて飛んで来る。こちらにも迫撃砲や大口径の機関銃や狙撃銃はあるが、至近戦では小回りの利かない武器はすぐに使えなくなる。残っているのは突撃銃とグレネードくらい。そして兵隊の数ではタリバンが圧倒している。
そんな中、ある兵士は負傷した仲間を救うために銃弾の雨の中を走り、もうひとりはその援護射撃をする。生き残るのは僥倖でしかない。
また別の兵士は極めて短い時間に戦術を練り、断然不利な状況を跳ね返そうとする。成功するにはよほどの幸運が必要だが、何もしないで犬死するよりはましだ。
運のよかった者が生き残り、運の悪い兵士が死んだ。しかし最初からこんなところに来なければ死ぬこともなかった。これが犬死でなくてなんだ。生き残った兵士も死んだ兵士も勲章をもらった。その勲章になんの意味があるのか。彼らは勲章をもらって本当に嬉しかったのだろうか。
映画は勲章を肯定も否定もしない。ただ勲章が授与されたという事実を告げるだけだ。観客が悟るのは、戦争のPTSDはこのようにして生まれるのだということである。アウトポストには女性兵士がひとりもいなかった。