「心揺さぶる傑作」少年の君 humさんの映画レビュー(感想・評価)
心揺さぶる傑作
誰にも気に止められず社会の暗闇を生きる若い2人が出会った。
境遇はまるで違うがどこか似たにおいを放ち、求めているのは金でも学力でもなぐさめでもない。
心を包みこむあたたかい素手のような愛の不在、それが共通点だった。
〝ドブに住んでいても星空を眺める者はいる〟その言葉を
何故チェンがノートに書き留めていたか理解した時、シャオべイの鋭い眼が穏やかな慈しみの色を取り戻す。
やりきれないかなしみを救うように沿うバリカン。
このシーンは2人だけに通じる痛みと彼のやさしさが溢れる。
静けさが心境の変化を際立たせ、鏡越しにみえる2人の空気を変えていくのがわかる。
かけがえのないものを知った者は本能にある守ろうとする力を目覚めさせるのだろうか。
前を向きだした2人に気がつく若い刑事は、学校で起きた冒頭の事件で担当した彼女を見守り続けた末、思わぬ展開で仕事の手柄を上司に褒められることになる。
しかし、刑事の心を掻き乱す何か。
彼の動揺は立場に消耗される人生を違う角度から問うのだろう。
重いハンドルでゆっくりと閉ざされていくドロアーが、栄光への切符に身を削る嵐のような時間を無機質な過去に押しやる。
この社会は、自分は、何を求めて突き進む?
我を保つ為に少しでも仕事を忘れようと眠るしかない刑事には、あの虚しい瞬間と重なる思いが少なからずあったと思う。
数年後、星は確かな光を彼らに届けていた。
彼女はこどもたちを救う立場で自身の経験を生かし、彼は相変わらず彼女を見守る。その姿は堂々とこちらをみすえる。
2人の出会いが結んだあの時代からの脱出の一歩と意志で変わる未来を感じさせるラストだ。
星空は眺め続ける者の〝希望〟をみはなさないのかも知れない。
固まった頬にたくさんの涙が落ち続けるエンドロール。
抜け出せない貧困のループ、いじめの仕組みの複雑性、罪悪感なき暴力の多様化、学歴にしばられる社会と狂う家族、栄光にすがり死にゆく時間への疑問など、作品を通してこんなに厳しい日々に生きる少年たちが現実にいることへの衝撃を隠すことはできない。
主演の2人の感性がスクリーンいっぱいに映し出す世界、知らずにいてはいけない世界。
傑作だ。
コメントありがとうございます!
こうやって、自分が忘れた頃に思い出させてくれるのはとてもありがたいです。
そうそう、こんな映画があったんだ、とか、へーこんなことを思ってたんだ、と当時の自分が新鮮に見えたりします。
こういうのもレビューを投稿してることの大いなる楽しみです。深謝‼️