劇場公開日 2021年7月16日

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「鑑賞前と鑑賞後で、題名の捉え方が変わる一作。」少年の君 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0鑑賞前と鑑賞後で、題名の捉え方が変わる一作。

2021年10月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作には、物語の流れや映像の雰囲気などに、どこか岩井俊二監督を思わせるところがあるけど、それも当然で、デレク・ツァン監督は岩井監督の影響を半ば公言しています。ツァン監督の『ソウルメイト』(2016)では、エンドロールに岩井監督の名前も刻まれているとのこと。だが当然、ツァン監督が、単に敬愛する映画監督の作風を模倣したり引用するといった段階に留まるはずはなく、見事な語り口と映像美で独自の作品世界を作り上げています。

本作はそんなツァン監督の作家性が如何なく発揮されており、物語の核は典型的なボーイ・ミーツ・ガールでありつつも、いじめや苛烈な受験など、現代的な諸問題を取り入れて、現代中国の映画として見事にアップデートしています。もし、あくまで彼らの目線に寄り添って物語を編んでいけば、レオス・カラックス作品のような、熱情と狂気のままに突き進む男女の物語となっていたでしょうが、本作では、彼らに立ちはだかる「社会」や「権威」すらも単なる敵としてではなく、緻密かつ冷厳と描いています。作中に登場する二人の捜査官はそれらを具現化した存在で、彼らが語る正論や主人公二人に発する言葉の一見温かみのある言葉が、実は誰に向かって発せられていたのか、それが明らかになったときにはなかなかに慄然とさせられます。題名は青春映画としての本作の一面を端的に言い表しているのですが、鑑賞中にこの言葉が発せられた状況を知ると、また別の意味が浮かび上がってくるという点でも、みごとです。

苛烈な受験やその渦中で人間性を失っていく学生達、そして圧倒的な経済格差がさらなる学歴格差を生み出していく悪循環など、本作では現代中国の様々な社会問題を取り上げていますが、さすがに正面切っての批判は難しかったのか、その社会的病巣にはあまり切り込まず、不良学生一人に全ての不条理と悪意を押しつけている感がありました。この点だけが残念。

yui