劇場公開日 2021年4月2日

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「DVの元夫の対決 + 家を建てる話 + 隣人のありがたみの話」サンドラの小さな家 雨はにわか雨さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5DVの元夫の対決 + 家を建てる話 + 隣人のありがたみの話

2021年4月12日
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「3万5000ユーロで建てられる小さな家の設計図を提供する」という建築士の話をネットで見て、自分で建てようとする話がプロットの大きな柱の一つです

3万5000ユーロって450万円くらいみたいです。450万でも大きなお金ですが、これで小さくとも家を建てられるなら安いですよね

でもそれは建築に必要な材料の費用、ということみたいです。土地は別

まず書類申請が通らないといけない。映画では詳しくは出てきませんでしたが、建築の資格がある人が監督しなければならないのでしょう

そして土地があって申請が通って材料を揃えたとしても、実際に家を建てる技術がある人がいなければできません
いろんな道具も必要。そして実際に作業をする人手が必要

みんなで家を建てている様子はなかなか楽しいです

ただ、家の建物は出来ても電気はどうするのかなあ。ガスは? 上水(水道)と下水は?

住める家にするにはそこが大変だと思うのですが、そのあたりはあまり触れてなかったのが少し不満かな

そんなこんなの家を建てる話でもあるのですが、プロットを進めるいちばんのメインはDVの元夫との話でした

===!!以下、軽いネタバレ含むので、未見のかたは飛ばしてください!!===

手を骨折?するほどの暴力を受けて、子供二人を連れて離婚した女性が主人公です

ある女医さんの家の清掃の仕事とパブの清掃の仕事をかけ持ちしているが、収入が少ないので住める部屋が見つからない

市の福祉で一時的なはずのホテルの一室での生活が続いていて、公営住宅も何百人待ちの状態で順番までまだ数年はかかりそう。(それで家を建てることを思いつく)

DVの元夫とは完全に縁が切れればいいのですが、娘たちの父親ということで毎週末に子供たちと面会させる取り決めになっていて、会わざるを得ない

元夫はあれだけ酷いことをしているにも拘らず「僕たちが離れ離れなのは子供達のためにもよくない」「僕は変わろうとしている」とかそういう甘言を弄してヨリを戻そうとしてくる。その一方で、下の子供が父親と会うのを嫌がると「お前の躾が悪いからだ」「お前が悪い話を吹き込んで会わないようにしているんだ」とか言いやがります

かつての暴力で酷い肉体的および精神的な苦痛を受けているのに、その元夫と定期的に会わなければならない苦痛。刺激して怒らせないよう、嫌がる素振りは見せられないし、子供にもそういうことは悟られないようにしなければならない。接触禁止のはずの元夫が、仮住まいのホテルに現れたときの恐怖。そして何もなかったかのように優しい素振りをして復縁しようとするのに、上手くいかないと彼女をなじる

そういう状況のツラさがよく描かれており、この映画のメインはそこだと思いました

((英語だとこういう人のことを manipulative personと言ったりしますよね。直訳すると「操作的な人」ですが、自分の責任には一切認めずに、巧妙に相手に罪悪感を持たせたり心理的な弱みにつけ込んで、他人を意のままにしたり利用するような人。そういう元夫が上手く描かれています))

あと三番目の話の軸は、人の人情ですね。家を建てるには土地も必要だし、建築の技術や知識のある人も必要だし、人手も必要

それほど深い仲でもない人たちが徐々に手伝ってくれる話の展開は少し都合よすぎる感じもするし、日本人なら申し訳なさすぎて頼みづらいと思いますが

それでもダメ元で頼んでみるし、頼まれた方も気軽に手伝ってあげたりするのはアイルランド的互助精神・人情ということらしいので、良しとしましょうw

女医さんは準主役ですが、その他の色々な脇役の人たちも皆おもしろそうな人物な割にはあまり掘り下げてないので、その辺りの話をもっと増やしいればまた別な、より楽しい話になったでしょうね

ただ上記のとおり、本作の話のメインはDV夫との対決となっているので、致し方ないでしょう

===!!以上、軽いネタバレ終了!!===

総評としては

DVの元夫との対決が話のメインなので、そういう話は見たくないという方には向かないと思います。物理的な暴力場面が多く出てくる訳ではないです。ただ本当は顔も見たくもない元夫に子供を会わせるために何度も会わなければならない

ただそういう人間のありさまを見るのも勉強になりますし、全体に暗い話ではなく、家を建てているところは楽しいし、脇役の人たちも上手だし、そんな話なら見てもいいという方にはお勧めできます!

雨はにわか雨