「現代と過去の黒人女性の視点が交差し、リンクする新感覚スリラー!!」アンテベラム バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
現代と過去の黒人女性の視点が交差し、リンクする新感覚スリラー!!
タイムスリップして過去に戻りたいと言う人もいるかもしれないが、アフリカ系アメリカ人においては少し違ってくる。
アメリカ映画において、タイムスリップ映画といえば、主役は白人が相場となってくる。それは黒人を主人公にしてしまうと、エンターテイメントとして消費できない人種問題が関わってきてしまうからだ。
マーティン・ローレンス主演のコメディ映画『ブラック・ナイト』の場合は、14世紀のヨーロッパにタイムスリップするという設定。人種差別という点では、あやふやに描かれていた部分もあったが、比較的近年のアメリカとなれば話は別。
『ブラック・ナイト』のようにぶっ飛んだ設定だったり、30年ぐらいのスパンであれば、良くも悪くもあまり変わってないかもしれないが、50年以上前となってくると、「公民権運動」「奴隷制度」などの問題が色濃く反映されてきてしまい、事情がかなり変わってくる。
今作で描かれるのは、対照的な2人の黒人女性の物語。
現代の人種問題について研究する社会学者ヴェロニカと150年前の南北戦争前の南部奴隷農場に囚われているエデン。
どちらも歌手であり、映画『ハリエット』においても南北戦争時代を生きた女性を演じたジャネール・モネイが1人2役を演じ、この2人のキャラクターの意識がリンクする部分が今作の見所である。
そこには、ある事実やギミックが隠されているのだが、「白人至上主義者」というのは、現代においても表に出さないだけで、心に潜む潜在的な概念として根付いてしまっている者もいれば、保守的な場所では、差別的態度をあからさまに表に出す者もいる。
「奴隷制度」が当たり前とされていた頃は、それが堂々と行われていた時代。白人の中にも「支配欲」「所有欲」といったものを黒人奴隷に対して見出していたこともあり、差別を行っていた白人の概念を狂わせてしまったことを思えば、「時代」が作り出してしまったものであり、その潜在的概念が自然に受け継がれてしまった現代人もいることを、対照的な時代に生きる黒人女性の視点から描くことに今作の意義があるのだ。
BLMが騒がれる昨今、映画やドラマとしても様々なアプローチがされてきた。
プロデューサーのショーン・マッキトリックは『ゲット・アウト』も手掛けただけに、今回も共通するテーマも感じる部分があるのだが、人種差別問題を誇張されたホラーやサスペンスに置き換えることで、より問題点が浮き彫りになる。
描かれているテーマとしては、決してエンタメ映画として軽く観るジャンルではないが、ストレートに人種問題映画としてしまうと、社会問題色が強調され、敷居が高くなってしまう。
『クィーン&スリム』やアカデミーを受賞した『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』であっても、日本では劇場公開されない。日本がそういった人種問題が身近ではないこともあるのだろうが、これは他国でも同じ。
幅広い層に、改めて人種問題について考えてもらうには、こういったハイブリッドな作品にする必要があるということだ。
結末を知ったうえで、もう一度観ると、さらにこの作品の深さを感じることができるため、2度鑑賞することをおすすめしたい。