「本好きの端くれとしては見逃せない作品」ブックセラーズ よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
本好きの端くれとしては見逃せない作品
ニューヨークのブックフェアを中心に、ブックディーラーたちを追ったドキュメンタリー。
本好きの人たちって、洋の東西を問わず似たようなものだな、と思った。わたしも端くれの端くれもいいところのブックコレクターなので、ああ分かるわその気持ち、と頷き通しだった。
本という媒体は歴代の所有者の思いをすべて載せて流通される。とにかく本を集めたいというコレクター、資料として必要な研究者、中身にこだわる愛好家、それぞれ本の扱い方も読み方も違う。だから、本を見れば、特にその本が長年様々な人の手を渡ったものであれば尚更、これまでの所有者がどのような思いをもってその本と向き合ってきたかが年輪のように積み重なっているものだ。
そして、本の愛好家たちはその積み重ねまでを含めて、本そのものを愛している。汚れているならそれなりに、この本は大事に扱われなかったのだなと労るし、どんなに大事に扱われようと経年劣化で痛むものだから、様々な修復手段も開発されている。
映画は、本のディーラーや収集家、書店経営者などを中心に、それぞれがどんな思いで本と接しているか、これからの本の行く末についてどう考えているかなどをインタビューで聞き出している。見えてくるのは、それぞれの思いは違っていても、皆「本」というスタイルで形作られた商品をこよなく愛しているということ。同じ本好きとして立場は違えど共感するものが多かった。
本を取り巻く状況が将来どうなっていくのかという部分については、考えさせられることも多かった。作中でも、ウェブの登場によるブックディールの激変と、デジタルデバイスの進化による読書スタイルの変貌について、やや悲観的に描かれている。特に後者については、本という媒体そのものがなくなるかもという未来予測もある。
たしかに、本をテキストデータの集積と捉えるならば、デジタル化したほうが扱いやすいし、紙媒体であることの付加価値が消え失せることによる恩恵も大きい。稀覯本について言えば、これまで入手困難で読めなかったものが簡単に読める時代が近づいているとも言える。
けれど一方で、それは出版文化の息の根を止めかねないものでもある。とはいえ、わたし自身はそれほど悲観はしていない。本でなければ成立しないものが必ずあるからだ。いちいち例を挙げて詳述はしないが、まだまだ本は必要とされていくはずだ。
それにしても、背景として映し出される映像に含まれた情報量とその多彩さには圧倒される。画としては然程内容に関係ないものも含め、なんと魅惑的な情報たちか。ビデオでいちいち一時停止しながら画を読み取りたいと本気で思った。