劇場公開日 2021年6月18日

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「いい問題提起、だけどCGライオンが……」グリード ファストファッション帝国の真実 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0いい問題提起、だけどCGライオンが……

2021年6月18日
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鑑賞方法:映画館

 搾取の権化のような大手ファストファッションブランドの商売の構造と、元締めの成金マクリディ(アルカディアグループのフィリップ・グリーン氏がモデル)に降りかかる皮肉な報いを描く話。存命中の人をネタ元にしてこの扱い、相変わらず洋画は自由ですね。

 マクリディの還暦記念パーティー直前から話が始まり、彼の自伝を書くため張り付いている記者や本人などの回想によって過去の彼の生い立ちや成り上がる過程、抱えている訴訟のことが語られる。5日前、数ヶ月前、数十年前と結構せわしなく場面が切り替わる。
 マクリディのキャラは、とにかくサイコパスという感じで、搾取のピラミッドの頂点に君臨出来るのはこれくらいゲスで、人の気持ちなんぞ考えたことないくらいの人間なのかなと思ったりした。彼が売る服を作るスリランカの工場の人の境遇に考えが及ぶなら、低賃金の現場の製品をさらに買い叩くような商売はとても出来ないだろう。
 富豪のマクリディは、大金を払ってパーティーに有名人を呼ぼうとする。この流れで、いろんなスターご本人がちょっとずつ顔を出す。コリン・ファース、キーラ・ナイトレイ、ベン・スティラーなどなどなかなか豪華な顔ぶれだ。マクリディが窓辺で奥さんといちゃつく場面では、窓の外でジェイムス・ブラントが弾き語り。何やってんですかこんなとこで。
 U2のボノは出演はしないが、節税方法をばらされたりしている。この辺はくすりと笑えて楽しい。

 実在の実業家への皮肉をぶちまけていい問題提起をしている作品だと思う。スリランカの縫製工場やミコノス島にたどりついた難民の描写、エンドロールで提示されたデータなどは興味深い。娘が参加していたリアリティーショーの撮影の、小馬鹿にしたような描き方も上手い。
 ただ、切り替えの多い映像と、マクリディとその母親以外のキャラが、人数が多い上個々の存在感が薄いことがあいまってか、全体的にパンチが弱く散漫な印象だった。ほぼ皮肉のブリティッシュジョークも、心置きなく笑えるようなツボからはちょっとずれていた。
 加えて、CG感満載のライオン……。初見でこりゃ何かやるなと思わせる重要キャラなのに、あのふわふわした動きはもうちょっと何とかならなかったのだろうか。
 モデルのグリーン氏の、実際のセクハラパワハラ横領などの醜聞をあらかじめ聞き馴染んでいれば、それと英国ジョークを英語で聞き取れる耳があればもっと笑えて、そんな細部はまあいいやと思えたのかも知れないが。

 過去の報道によると、マクリディ役は当初サシャ・バロン・コーエンを起用する予定だったそうだ。正直そのパターンも見てみたかった。

ニコ