劇場公開日 2021年5月28日

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「やっぱり人生に花は必要なのだ」ローズメイカー 奇跡のバラ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0やっぱり人生に花は必要なのだ

2021年6月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 エヴの営むバラ園の再生と、前科者のフレッドの再生とを上手にシンクロさせてヒューマンドラマに仕上げた秀作である。
 人生は出逢いと別れの連続だ。そして往々にして人の予測を裏切る。最悪と思われた出逢いが人生で最良の出逢いとなることもある。本作品のエヴとフレッドの出逢いがまさにそれだが、フランス映画らしく互いの人権を尊重しつつ、駆け引きもありつつという微妙なバランスの上で物語が進んでいく。フレッドが必ずしも根っからの悪人ではなく、エヴが必ずしも善人ではないところがいい。もしエヴが純朴な善人だったら、見るからに悪党のフレッドを受け入れることはなかっただろうし、その鼻面をつかまえて引きずり回すような展開にもならなかったと思う。
 バラ園といえども金融資本主義の利益優先の流れに与しない訳にはいかず、何度も訪れた経営危機を乗り越えてきたエヴは、優しそうな外見とは裏腹に、海千山千の強者(つわもの)なのだ。きれいごとよりもリアリティを追求したフランス映画らしいストーリーは意外にスリリングで、目の離せない展開にワクワクしながら鑑賞できた。俳優陣は知らない人ばかりだったが、みんな文句なく達者だ。
 ベタなシーンもあったが、それぞれが思い切りよく短くされていてくどくない。テンポがいいのだ。ラストの花言葉によるメッセージも洒落ている。挿入されたビバルディの四季は何度聞いても名曲だ。
 以前から、人生にそれほど花は必要なのだろうかと疑問に思っていたが、本作品をきっかけに来し方行く末を見渡せば、人生の節目節目で梅があり、桜があり、躑躅(つつじ)があり、紫陽花(あじさい)があり、向日葵(ひまわり)があり、菊があり、曼珠沙華(まんじゅしゃげ=彼岸花、サンスクリットでマンジュシャカ)があった。もちろん薔薇(ばら)もあった。やっぱり人生に花は必要なのだ。

耶馬英彦