劇場公開日 2021年3月19日

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「ミナリ」ミナリ tyshiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ミナリ

2023年3月11日
iPhoneアプリから投稿

面白かった。
この「面白い」の正体はなんなのだろう。謎に注目してみていたが、わかりやすい謎というものはこのお話にはなかったと思う。
それぞれがそれぞれに思惑を抱えていて、それが全員うまく行っていない。デビッドは、男らしい夢を追いかける。家族との両立をしようとするが、仕事にかける思いはやはり大きい。家族との安定した生活より、やりがいや、欠けるものがある方が燃える。一方妻は、家庭を守ることだけを考える。やりがいや仕事などより、まずは息子と娘、そして旦那。生活水準の向上。より良い暮らしを求める。

これは面白いなと思ったのは「老害」というもの。おばあさんは、周囲から見れば完全なるお荷物である。子供2人のお守りのために呼んだのに、逆にお守りされる側になる。金は盗むし、アメリカの生活に慣れそうとしない。わがままで横暴。責任感など一切ない。が、1番タチが悪いのはそれを悪いことだと思っていないことだ。正義を執行していると思っているところ。間違いなく迷惑をかけているというのに、それが正しいという自分の固定概念が抜けない。

整理してみても、私の思う「生の感情」が出る作品。ということではない。しかし、なんとなくこの作品にも「サスペンス」を感じるのだ。もしかして僕は単純に「悲しい」話が好きなのだろうか。うまくいかない。思うようにいかないところにサスペンスを感じるのか?

「悪者」は1人だって出てこない。さまざまな見方で誰もが「悪者」になる。

前回の映画で出た「生の感情」の発生。それは、もしかしたら観客の「生の感情」なのかもしれない。映画を見ていて、普段は隠しているつもりでもふと出てきてしまう「生の感情」が出る瞬間が心地いいのか。
例えば、子供がおしっこをおばあちゃんに飲ませようとした時、やってしまえ!と思った。おばあちゃんが、火を倒してしまった時、こいつ本当に嫌なやつだな。と思った。
でも、仕方がない。老人だから。このジレンマ。すごく嫌なやつで最低だけど、仕方がない。そういうものなんだと受け入れざるを得ない。

普通の映画レビューみたいになるが、最後木の棒で水源を当てるやつに頼るのが、やはりこの映画のキモ。周りを当てにせず、孤立し、自分の信頼するものだけを周囲に置くことだけが全てではない。主人公はとにかく足掻くが、足掻き方が違う。男のロマンを求めるのはいいが、賢く生活していかなければ、成功は掴めない。これがどんなことにも言えること。

というテーマが見えてきたが、そんなことはどうでもいい。自分がこの映画を見てどう思ったのか。どう感じたのか。
僕はこの映画を見て1番に思う感情は「やるせない。どうしようもない無力感」足掻いて足掻いて頑張っているのに、成功は逃げていく。

tyshi