「「ある移民の物語」では終わらない奥行きを持つ一作。」ミナリ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
「ある移民の物語」では終わらない奥行きを持つ一作。
『バーニング 劇場版』(2018)の演技が印象に残るスティーブ・ユァンが韓国系移民家族の父親を好演。土壌は良いが他には何もない原野を購入して、これからここで一旗揚げると宣言するジェイコブ。その妻のモニカ(ハン・イェリ)は夫の言動に翻弄されつつも、懸命に土地を耕し、一家を養おうと奮闘する…。と、表面的にはある移民の奮闘記なんだけど、それだと十字架を背負って歩く知人の意味が良く分からない…。
一方で土地と奮闘する描写に、『天国の日々』(1978)や、『名もなき生涯』(2020)を連想していたんだけど、この連想はあながち間違いじゃなく、リー・アイザック・チョン監督はこれらテレンス・マリック作品から強い影響を受けて本作を制作したとのこと。その影響は作品のテーマに及んでいて、外形的には移民奮闘記である本作にも、マリック作品同様宗教的な要素が強く反映されていることが分かります。それは例えば、本作の主人公であるジェイコブの名前や、十字架を背負う男、そして何よりも土地を耕すこと、といった様々な形を取っていて、それらを注意深く見ていけば、全く別の作品のような側面が明らかになるという、奥深い作品。
映像的にもテレンス・マリック監督の影響が強いのか、光の写し方が非常に美しく、単なる原野、小川近くに群生しているミナリ(セリ)、ゆらめく炎など、どの場面も細部まで鮮やかに目に飛び込んでくるほど。
アカデミー賞の結果は本作の価値とは直接関係ないけど、やはりできるだけ多くの賞を獲得して欲しいと願ってしまいます!
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