「この一家の暮らしをずっと、ずっと見守っていたくなる」ミナリ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
この一家の暮らしをずっと、ずっと見守っていたくなる
目下、アメリカ映画が多文化的な進化を続けている。これもその流れを強く感じさせる一作だ。韓国からアメリカ、アーカンソー州へ越してきた家族。彼らを待ち構える運命は決して前途洋洋とは言い難い。だが、本作には眩い光がある。輝きがある。何よりもこの映画は一つの文化に閉じこもることなく、常にあらゆる観客の感性に向けて開かれた大らかさを持っているかのよう。土の香りや植物の緑。農作物のみずみずしさや木漏れ日の美しさ。とりわけ変幻自在に全編を彩る「水」と「火」は印象的で、これらは対極的なイメージでありながら、いずれも家族を写しだす鏡とさえ言える存在だ。兎にも角にも、従来の米映画が描かなかった新たな物語であり、なおかつ”開拓”という意味合いではあらゆるアメリカ人に通底する側面を持った本作。家族を演じた面々のハーモニーが素晴らしい。新風を吹かせる”おばあちゃん”や隠遁者風のウィル・パットンの味わい深さも絶品だ。
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