「本作の成功はほんの1部分に過ぎない」ミナリ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
本作の成功はほんの1部分に過ぎない
描くのは一言で言って「人生」。アメリカ、アーカンソーの荒れた土地を耕して農場を作ろうとする韓国人移民一家に降りかかる、苦労と災難、夫婦間のすれ違い、子供たちのゆっくりとした成長、世代間の融合、etc。実は最近、あまり描かれることがなかった生きることそのものがもたらす、切実さと静かな感動がここ
にはある。あえて書き加えるなら、慣れない場所に住まい、同化することの困難さ、その力強さが、妙に心をざわつかせる。ミナリとは、どこにでも根を張り、成長する韓国産セリのことだとか。なるほどと思う。それは、監督のリー・アイザック・チョンと主演のスフィーヴン・ユァンたちが築いてきた、韓国にルーツを持つアメリカ人たちが歩んできたリアルな時間にも繋がるからだ。彼らと同じ移民2世3世たちは、この映画に自らを重ねただろうし、また、受け入れた側のアメリカ人たちは、母国について改めて思いを馳せたに違いない。そうして観客の裾野は広がり、結果、今年の賞レースをリードすることになったのだと思う。本作を観て感動したJ.J.エイブラムスは、自らがプロデュースする「君の名は。」のハリウッド実写リメイクの監督にチョンを指名したことでも分かるように、アジアン・パワーはハリウッドに深く根を張り、逞しく成長を続けている。「ミナリ」の成功はほんの1部分に過ぎないのである。
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