「私は悲劇のプリンセスじゃない」スペンサー ダイアナの決意 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私は悲劇のプリンセスじゃない
ダイアナを映画で描く事は鬼門だ。
2013年のナオミ・ワッツ主演の『ダイアナ』は大失敗。Netflixの『ダイアナ・ザ・ミュージカル』も大不評。
これらは描き方に問題あったと思う。例えば『ダイアナ』は、大衆やマスコミが見たそうなゴシップ的なチープなメロドラマ。本当にそんなダイアナを見たいのか…?
若くして“世紀のプリンセス”となり、世界中の人々に愛された一方、王室や当時の夫チャールズ皇太子との関係に苦悩。が、母として息子たちを愛し、一人の女性として自立。そんな慈愛に満ちた人間像や悩み多き内面の“等身大”のダイアナを何故描かない…?
その点、本作は秀逸だった。定番的な半生や安っぽいメロドラマとして描かず。
ある数日間の出来事。ダイアナが離婚や王室を離れる決意をしたという3日間。
1991年、ロイヤル・ファミリーが集ったクリスマス休暇…。
この時すでにチャールズ皇太子との関係は冷えきり、色々な噂に晒され、大衆やパパラッチに追われる日々…。
ファーストシーンからダイアナはすでに精神的に追い込まれている。
第一声に驚いた。まさかの“Fワード”。あのダイアナがFワードを発するなんて…。
でもこれは偏った見方なのかもしれない。ダイアナだって一人の人間だ。思わず声を上げたくなるし、そういう言葉だって出る。聖人君子ではないのだ。
我々と同じような目線や姿。リアルなダイアナ。
『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』でもケネディ夫人の内面や苦悩を描いてみせたパブロ・ラライン。本作でもその手腕を発揮。
イギリス王室御用達の私邸でクリスマス休暇。さぞかし贅沢な一時であろう。
が、ダイアナにとっては“監獄”でもあった。
古い伝統やしきたりにがんじがらめ。必ず来た時と帰る時に体重を量り、楽しんだ証として1㎏太らなければならない。何じゃそりゃ!?
3日間食事の時に着る服も決められている。
部屋はカーテンが掛けられたまま。周囲の好奇の目やパパラッチ対策。
新任の責任者の少佐。有能で、トラブルからロイヤル・ファミリーを守るのが職務。が、ダイアナにとっては常に光らせている目は終始監視されているかのよう。
そう。ここにはダイアナの自由や居場所は無いのだ。
パパラッチではないのだが、ずっと誰かの視線を感じる。抑え付けられ、息が詰まりそう。
気の休まる瞬間も全くナシ。ここに居たら、どんどん自分が壊れていきそう。
“たった3日間”なのか、“3日間も”なのか…。
象徴的なアクセサリーやシークエンス。
夫から付けるよう言われた真珠のネックレス。実はそれ、夫が愛人に送ったのと同じもの。
何かの嫌がらせか、ただ気付いていないだけなのか。ダイアナにとっては辱しめられ屈辱的。
ある会食の席で付けるが、それが気になって仕方ない。ネックレスに手を掛け、引きちぎろうと…。
ダイアナが何度も見る女性の幻影。アン・ブーリン。15世紀のイングランド王ヘンリー8世の妻で、エリザベス1世の母。ダイアナにとっては遠縁。
後にアンは、ヘンリーが別の女性を妻に迎える為、処刑されたという…。
そんなアンに自分を重ねるダイアナ。
幻影の中で、アンから忠告を受ける。「逃げて!」。
処刑なんて事はない。が、夫と愛人の間に挟まれ、自分と同じ苦しみにならぬよう…。
近くにあるダイアナの生家。生まれ育った所なのに、開幕、道に迷う。それくらいダイアナの精神は疲弊していた。
ある夜、生家に忍び入り…。そこで思い出す過去。自由に満ち溢れていた。
終盤のこのシーン。ネックレスとアン・ブーリンと生家が交わり、ダイアナは決意する…。
印象的、象徴的なシーン。
不安定な精神状態を表すような幻影も交える。
ジョニー・グリーンウッドの音楽が不穏なムードを醸し出す。
部分部分的にサスペンスやホラーのような印象も受けた。
作品は決して万人受けするものではない。重く、暗く、気が滅入りそう。
邸の中は暖房を入れず、寒い。クリスマス時期だからもあるが、邸の中も外も終始寒々とした雰囲気。それは気温だけに留まらない。集った人間関係がそれを発している。
その反面、衣装や美術やヘアメイクや映像の美しさ。何処か寓話的だ。
開幕の一節。“史実に基づく寓話”。確かに史実に基づいているが、何処までが本当にあったか、その時ダイアナが何を思っていたか、創作でもある。
だが妙にリアルさを感じ、こうであったろうと納得すらさせてしまう。
監督の巧みな手腕に脱帽。
大昔の人ではない。
今尚人々の記憶に残り、愛され続けている。
美しさと芯に秘めたもの、複雑な内面と脆さ…。
ダイアナを演じる事はプレッシャー以外の何物でもない。ナオミ・ワッツでさえ酷評された。
誰が演じられるか…?
まさかあの“ヴァンパイアの恋人”とは…!
クリステン・スチュワートの名演が素晴らしい。もう一度言いたい。クリステン・スチュワートが素晴らしい。
話し方、仕草など徹底的にリサーチ。私は日本人なので違いはよく分からないが、クリステン自身はアメリカ人だが、イギリス英語を完璧にマスターしたという。
光り輝くような美しさ。
ヘアメイクなどで似せているが、ダイアナに見えたり、クリステンに見えたり。超そっくり似せ過ぎず、絶妙。だんだん自然にそう見える。
何より複雑な内面を体現。これが本当に素晴らしい。
アップも多く、苦悩や今にも壊れそうな内面を見事に表し、驚くほど引き込まれる。
クリステンの女優人生も山あり谷ありだ。子役としてスタートし、ヴァンパイアの恋人でティーンの憧れに。一時期ゴシップや低迷。インディーズ作品で実力を示し、そんな時に本作。
オスカーノミネートは当然。と言うか、受賞して妥当だろう。私なら彼女に一票投じる。これでオスカー獲れないとは…。
残念で仕方ないが、間違いなく現クリステンの決定打。
少佐役のティモシー・スポール。立ち位置から憎まれ役だが、ただのそれではない好助演。
衣装係のサリー・ホーキンスも好助演。ダイアナとは特別な関係が…。
彼女から愛の告白を受ける。
世界中に愛されるプリンセスだが、こんなに愛を身近に感じた事はない。夫からの愛ももう…。
私はもう愛されていない。いや、そうじゃない。
一人が愛してくれる。大勢が、世界中が、愛してくれる。
ダイアナはその愛を誰に向けられるか。
世界中の人々は勿論だが、何より愛しているのは、息子たち。
この息が詰まる場でも、息子たちと過ごす時だけこそ本当の自分でいられる。
息子たちとゲームに興じる時の表情。“プリンセス・ダイアナ”ではなく、優しさと愛に溢れた一人の母親だ。
王室で自身で育児をするのは異例だったという。それでもしたかった。
未来の王妃として、この王室に、自分が生きたい世界はない。それがあるのは、息子たちの為と、王室の外…。
クライマックス。恒例のキジ撃ち。その最中に現れ、息子たちを車に乗せ、王室の外へ飛び出す。
何物にも縛られない。愛する存在と共に。
ノリノリの楽曲を歌って、ファストフードを注文して、“スペンサー”と名乗る。
自由と解放と。
この直後離婚し、その数年後にあの悲劇に見舞われるが、晴れ晴れとしたダイアナの表情に救われる。
王室の訳あり人間模様。
個々の姿、本音。
スキャンダラスでもあるが、それをこうやって映画として描けるイギリス映画界と王室に頭が下がる。
日本では…。
そんなタブーに挑む日本映画界や開けた皇室は、いつかやって来るのだろうか…?
おはようございます😃
たくさん共感コメントしていただきましてありがとうございました😊
勝手に実話かと思ってましたが、
真実は謎、ですね。
どうこう言ってもチャールズには腹が立ちます。
返信結構です。ありがとうございました😊
こんばんは♪
詳しいレビューをありがとうございました😊
どこまで真実かわかりませんが、
いろんな点で驚きました。
王室の人たちの冷たいこと、
大人な対応かしれませんが。