劇場公開日 2022年10月14日

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「映画内の字幕が不親切で混乱を招くところが…(補足入れてます)。」スペンサー ダイアナの決意 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画内の字幕が不親切で混乱を招くところが…(補足入れてます)。

2022年10月16日
PCから投稿

今年305本目(合計580本目/今月(2022年10月度)19本目)。

最初に「実話をもとにした寓話です」などとでますが、あることないこと入れられませんので、実際のところ、何かの(実際の)できごとをもとに、ある程度脚色して作られたのだろう、とは思えます。

全般的に暗い展開(俗にいう「うつ展開」)が多いものの、結局のところそれは、身分がゆえに自由が保証されず、社交が優先されたり、その宮殿から出ることがなかなか許されない、あるいは、そのために限られた人との交流「しか」ない、という論点(日本でもイギリス以外の外国でも、同じような状況は起こりえます)が全面にあります。結局のところ、そうした「身分の高い人のそれがゆえに、警備などの関係によって本人の移動が制限されるような状況であるなか、本人の移動の自由(日本では、憲法22条の1)など、日本でいえば基本的人権(に相当する、各国の類似するもの)をいかに保証するか、という意味において、若干「憲法的な議論」があるのかな…という見方です。

なお、イギリス英語は結構独特で聞き取りが難しいと言われます。この映画でも主人公(ダイアナ妃)の英語はわかりやすいですが、中には結構早口な方や「いわゆる宮殿でしか使わないだろう格式高すぎる語」が出たりと結構聞き取りには苦労はします。とはいえ、イギリス英語を堪能できる映画ってあまり多くはなく、その観点ではイギリス英語好き、興味があるという方にも(この映画自体が「実話をもとにした寓話ものです」とあるように、あることないことは書いていないため)おすすめです。

採点に関しては下記を考慮しています。序盤から出てくる上にかなりわかりにくいです。

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 (減点0.5/日本の英文法教育に配慮しない字幕)

 「時制(tense)はならったことがある?過去(past)、現在(present)、未来(future)の3つだけど、ここ(宮殿)では過去と現在しかない」と子供に説いているシーンです。

 この部分はこれ自体でも結構わかりにくいのですが、英語ではさらに複雑な問題をかかえます。

 英語は、動詞の活用というのはbe動詞の不規則活用以外、基本的に「三人称の-sをつける」が現在形のルールで、過去形は「-edをつけるか、不規則活用動詞がある」ことは習います。しかし「未来形」というものは習ったことはないと思います。そのようなものは英語に存在しないからです(動詞の活用で未来形を表現しない)。

 つまり、will + 動詞の原形 や、 be going to 動詞の原形 といった形で未来を表現しますが、ここで着目するのは will や be など(I am going to などとあれば、am は現在時制)は「現在時制」の動詞にすぎません(willの過去形は would ですが、will の「未来形」というものはありません)。

 しかし、「過去形はあるのに未来形はない」というのは日本の英語教育(特に中学)では当事者が混乱するので、will + 動詞の原形 などを指して「未来形」と呼んでいることが普通で、動詞の活用で時制が決まる以上、その意味でも日本では「未来時制」を認めることが多いです(日本では中高の指導要領に拘束される学校教育はこの立場に立ちます)。

 ただ、英文法的に正確にいえば「未来時制を認めるか」は争いのある分野で(スペイン語、フランス語などは明確に「直説法未来形」で動詞自体の活用が存在します)、「学校教育における配慮」という論点、「そもそも、学校教育の配慮をはなれた、英語自体の文法論」という点では現在でも(本国、アメリカ・イギリスでも)争いがあります。

 さらにわかりにくいのは「文法的な時制と意味的な時制が一致しないケース」が存在する点で、これも知っている方が多いでしょう。中学校で「丁寧な頼み事をするとき」に Could you ~? という表現を習った方もいると思いますが、これは「意味的には現在時制、文法的には過去時制(couldの現在形はcan)」というケースです。つまり「時制」には「意味的なものと文法的なものがある」わけです。

 このような論点があるので、「未来時制」というものを学校では「便宜上」習いますが、それは形式的なものにすぎず、ちゃんと知識を持っていると理解にハマリが生じます。また、何であろうとそもそも、この映画で突然英文法の話をして、「時制」という概念が突然出てくるのもマニアックです。ちょっとここは配慮が欲しかったところです。
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yukispica