「浮き彫りになる幾つもの表情に胸えぐられる」ホロコーストの罪人 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
浮き彫りになる幾つもの表情に胸えぐられる
ナチスによる大量虐殺を描いた映画は数多い。が、本作のような作品に触れると、その一つ一つに事情の異なる惨劇が刻まれていることに胸えぐられる思いがする。例えばこの映画の舞台はノルウェーで、当地には当地特有の、今なお禍根を残す事情が刻まれている。ここにはナチス侵攻後、手先となってユダヤ人政策を推し進めた秘密警察の存在があった。すなわち同国民の手によって多くの人が収容所へ送られたのである。幸福の中にあったユダヤ人家族がたどる運命に焦点をあてつつも、やはり強烈な印象を残すのは、ごく普通の人々が淡々と職務を遂行するように政策遂行に手を染める姿。人はおのれが悪魔へ変貌しているときほど、その事実に気づかない。あるいは気づいていても平然と自分を正当化しようとしているかのようだ。そうした幾つもの表情が本作では克明に浮き彫りにされ、言いようのない衝撃が広がる。これもまた人類の教訓として受け止めるべき一本である。
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