「毎秒毎分毎時間毎日、どんどん失われて行く命」アウシュヴィッツ・レポート redirさんの映画レビュー(感想・評価)
毎秒毎分毎時間毎日、どんどん失われて行く命
あまりの惨状故にホロコーストを扱った映画は涙一滴も出ない。本作品も然り。
アウシュビッツビルケナウ収容所で、記録係として何とか生き延びてきた主人公2人の決死の脱走。決死といっても覚悟するのは自分の命ではない。収容所に残る仲間が、ビルケナウにいるだけで、脱走してもしなくても遅かれ早かれ死ぬことは決まってるのだ。脱走のタイミングを待つ間も死の列車は続々到着し、無為に死を待つ人の数は増えるばかり。その間にも殺戮が機械的に行われ記録の数は増えるばかり。2人の決死の行動には何十万人もの命がかかっている。一人でも多く助けるための決死の行動。決して死なせない為に走る。彼らが記録し計算してきた死者の数、無為に命を奪われるその数とスピード。途中で出会う人は大丈夫なのか、村人はシンパシー感じてくれるかせめて無視してくれるのか。森にでて味わう開放感、道中の不安、赤十字を待つ間の焦燥、会ったときの疑念。権力者はうまく隠す。スポンサーは自らの行為の善と効果を信じたい。赤十字が収容所を視察したり支援物資、ギフトを送っていたとは知らなかった。最後に決断をせまられる、この事実を受け止めるかどうか、どう行動するかはあなた次第とビルケナウの使者が迫る。赤十字のえらいさんが逡巡するその間にももどかしくも、口惜しくも、仲間はどんどん運ばれてどんどん殺されているのだ。
ナチス将校は自分の子どものことで頭がいっぱいで、利他的な、アッシジのフランシコを思わせる収容者に八つ当たり。始業や列車の到着にはストラウスのワルツ。このように禍々しく狂った世界を知ることはあらゆる人に必要だと切実に思う。
2020年代の今もなお、世界中で様々な規模のジェノサイドは平然と行われており視察査察もこの映画と同じような実態であろう。外形標準整っていれば、よしとして、アウシュビッツと同じように、善意の人は見過ごすか、自己保全自己肯定や上部圧力に乗る人は故意に見逃してしまうだろう。、なぜ人類は学ばないのか。感じることを大事に捉えないのか。このような映画を歴史地理政治なんの教科でも良いから授業で見たら良いと思う。たくさんの人が見るべき映画だと思う。生き延びて事実を明らかにした2人、このように重くリアルな作品を作った方たちに脱帽する。