「ダイナミック」ザ・ホワイトタイガー 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ダイナミック
インド舞台なので、ボリウッドだと思って見始めた。
描写がドライでダイレクトなので、ボリウッド成長したなあ──とか思っていた。
が、インドは製作国のひとつではあるが、映画はボリウッドではない。
監督(Ramin Bahrani)の見た目はインドっぽいが、来歴には、イランの移民でアメリカ生まれとあった。かれはアメリカ人。映画もおそらく純然たるハリウッド映画である。
むかし踊るマハラジャというインド映画が流行った。大流行と言ってよく主演女優が来日したこともあった。そこからインドの映画産業Bollywoodが一般に認知され、日本にもファンが増えた。
個人的にはBollywoodに、さほど感興しなかった。踊るマハラジャは、興味深い映画だったが、それはクオリティではなく「勢い」だった。
いや「勢い」というより見たことのない「やりすぎ感」とでもいうべきものだった。とりわけミュージカルの設定ではない(はずの)映画でいきなり群舞になってしまうのがBollywoodだった。なんでもいいから歌って踊っちまえ──がBollywoodだった。
それが、新鮮なのだった。
もちろん、その新鮮度は、じょじょに後退してくる。じっさい近年のインド映画は、いきなり踊り出すような脳天気はなくなって、欧米のスタイルになっている。
ここ20年間で、よく「次はインドがくる」という予測を見聞きした。「くる」のは、経済や文化や、国家間のポジション、あるいはETFのこと、などである。インドは「きた」のだろうか?
よく知らないが個人的に「次はインドがくる」には懐疑的だった。
人口はあと数年(現在:2021年)で中国を抜いて世界一になるらしい。人口は「くる」が、他はどうだろう。インド映画はくるだろうか。
個人的にインド映画には「建前」を感じる。
インドへ行ったことはなく、知っているとも言えないので、憶測にすぎないが、13億人ものにんげんがいるなら、もっと錯雑な世界があるはずだが、インド映画は、欧米に寄せた感じの映画ばかりで、じっさいの民衆を反映している描写がすくない──ような気がする。ほぼ総てエンタメの装丁で、リアル系(アートハウスやインディ)の映画を見たことがない。
憶測に偏見も交じえると「もっと貧しいんじゃないか」というのが本音。人々が絶賛するきっとうまくいくにもベタだなあしか感じなかった。多くのインド映画で美女がサリーの腰をくねくねしながらそこらへんにいるがそんなはずがない。
ようするに、この映画のインドがリアルなのはひとえにボリウッドじゃないから。である。
本編で主人公が温家宝に充てた手紙で「(インド人には)衛生観念や規律や礼儀、時間厳守の習慣もありません」とある。
わたしは、インド人もインドも知らない。外国人を揶揄したり差別するつもりもない。ただし、そっちょくに言って「衛生観念や規律や礼儀、時間厳守の習慣も」ない民族は時代が進展しても「来ない」と思う。もちろんかれが戦ってきた階級制度も、興起をさまたげる枷にちがいない。
白人は落ち目だ。茶色や黄色の時代だよ。──とかれは言うが、いやいや今後も白人の時代だろうさ。とわたしは思った。
しかし映画には、また、かれのきらきらの眼光には、心を揺さぶる迫真があった。