劇場公開日 2021年2月20日

「おーい でてこーい」地球で最も安全な場所を探して pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0おーい でてこーい

2021年3月13日
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鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

やっぱり放射性廃棄物の捨て場所などないのだ。
この映画は明快な確信をくれた。
最終処分候補地として、黎明期に世界の原発を牽引した英国・セラフィールド、スイスでの処分候補地はフェルゼナウやベンケン。
原発に否定的で保有しないにも関わらず地質学的な面から候補にされたオーストラリアのオフィサー盆地(世界有数の平坦かつ広大なエリア)
他にもドイツ・ゴアレーベン、青森・六ヶ所村、中国・ゴビ砂漠、スウェーデン・エストハンマル、米国・ワシントン州ハンフォードサイトやネバダ州ユッカマウンテンが登場し、
「最終処分候補地として選ばれた理由」「反対派の意見や運動」「推進派の見解」「候補地検討の経緯」が語られる。

とりわけ、ハンフォードサイトの話には深い感慨を覚えた。あの「マンハッタン計画」の舞台だ。ここで製造された原爆が広島・長崎に投下されたのだ。

冷戦時代はソ連との対抗で一層拡張され、コロンビア川に沿って12基の原子炉、8基のプルトニウム濃縮処理施設、900棟のビルが集中する「世界で最も汚染された場所」となっている。

近くにはネイティブ・アメリカンのヤカマ族居留地がある。コロンビア川の魚を主食として、アメリカの大地がヨーロッパ人に植民地化される遥か以前からこの土地に暮らしてきた。

ヤカマ族は世界中のどの自治体よりも長く放射能汚染と闘ってきた。ハンフォードサイトは世界初の高濃度放射性物質処分地となるところだったが、地質上の欠陥を訴えるヤカマ族環境保護活動家の反対により実現しなかった。
もし実現していたら今頃はコロンビア川に大量の放射性物質が流出し、太平洋に注がれていたであろう。

その危険性は今も去ってはいない。連邦政府はハンフォードサイトの浄化に毎年20億ドルを費やしているが、30年で完了するはずだった浄化計画は半分も進んでいない。捨て場所がないのだから当然だ。

レストランを開店する時、衛生面と従業員数に配慮されたトイレが設置されていなければ保健所の許可は降りない。
こんな当たり前の理屈を無視して、トイレ(処分施設)のない原発を稼働させているのは狂気の沙汰ではないのか?
全人類を容易に滅亡させられるだけの廃棄物がすでに発生しているというのに?

本作は、原発反対派のみならず「推進派の学者が処分地を求めて探し歩き、未だ辿り着けず」という事実を推進派に語らせている点で、ありきたりの反原発啓蒙映画とは一線を画す価値を生み出している。(しかも50年もの旅路だ!半世紀かけても見つからないのだ。これ以上、どこにあるというのか・・・。)

世界中に現存する約400基の原発のうち、50基以上は日本にある。
如何に多くの核廃棄物が日本という地震大国に集中しているか考えてみた事のある日本人は一体何割なのだろう?
星新一の有名小説のように「人類にとって安全な捨て場所」などないのだ。
「あった!」と勇み足で捨ててしまえば必ず未来に禍根を残す。
ただし、あくまで「人類にとって」だ。別にセシウムによって人類が滅亡しようとも地球にとっては痛くも痒くもないだろう。46億年の地球史において滅亡する種が一つ増えるだけの事だ。

「地球を守る」などと傲慢な事を考えず、人類が地球の仲間として生存を許可して貰うにはどうあるべきなのか。
一人一人が他人事ではなく、自分事として考え続けねば、保健所の許可ならぬ「生存許可」を地球に取り消されてしまうかもしれない・・・。

pipi