劇場公開日 2022年1月14日

「苦心惨憺の映像」コンフィデンスマンJP 英雄編 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5苦心惨憺の映像

2022年2月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

人気TV番組を映画化した第一作が興行収入29.7億円とヒットし、真価を問われた第二作も38.4億円を上げてヒットし、すっかりシリーズ化が定着して、満を持して制作されたコン・ゲーム・ムービーの第三作です。
コロナ禍に晒された鬱々とした日々も2年を超し、更に第六波の凄まじい猛威の渦中で、本作は、騙し騙される詐欺師の世界を痛快でコミカルに見せてくれます。本作は、刹那的にせよカタルシスを得られる、今の鬱屈感をスカッと払拭してくれる最適の娯楽作といえます。
その上、日本、パリ、マルタ島と舞台が展開する、映画らしい豪華で壮大なスケール感は、如何にも本シリーズに相応しく大いに心地良く爽快感に浸れます。

コン・ゲーム映画の魅力は、主人公の詐欺師チームが如何に標的を騙すかではなく、如何に観客を騙すか、そのための伏線の然り気ない構成と配置の巧妙さに尽きます。
前二作に続いて本作も見事に観客を騙してくれます。詐欺師チームの真のターゲットの意外性とそこに至る仕掛けに思わず舌を巻きます。

但し、第一作がTVの延長線上でひたすら“コン・ゲーム”の痛快さを追い求め、二作目は詐欺の巧妙な仕掛けに家族の情を織り込み、その上に北大路欣也を始め豪華キャスティングだったのに比して、この第三作は、一見財宝をターゲットにしつつ、その目的を名人の名跡=栄誉を得るという、華麗でスマートな物語にそぐわない、極めてウエットで情的な設定ゆえに、物語の落ち着き先がぼんやりとして、不透明感が終始拭えません。
このシリーズは、元々詐欺の仕掛けの奇抜さと当意即妙の駆け引きが魅力であるので、アクションやラブロマンスシーンはなく、従って映像のメリハリが求められてくる処なのに、折角の世界遺産のバレッタの美しい街並みや地中海の宝石・マルタ島の華やかで甘美な空気感が殆ど描かれません。
更に会話シーンの都度、互いの長めの寄せカットがやたらと無意味に頻りに挿入されます。
本来なら緊迫感や濃密な空気感を漂わせるための寄せカット長回しですが、その必然性が全くなく強引で下品な印象だけがします。
映像づくりに、これほど工夫がない作品は稀ですが、ここでハタと気づきました。

本作は、将にコロナ禍の真最中に制作されたゆえに、実際には役者連はパリにもマルタにも行けず、国内ロケを如何にもそれらしく撮らざるを得なかったのだということに。にも関わらず、よくぞここまで精巧なメタバースの時空を創作したものです。
苦心惨憺の末に捻出した映像に、謹んで敬意を表します。

keithKH