「映像と音楽で」竜とそばかすの姫 kyamu_kyamu0さんの映画レビュー(感想・評価)
映像と音楽で
プラスマイナス0といった感じです
映像と音楽に関しては時代を追って進化し続けるアニメーションの一つの到達点とすら言えるレベル
ここ最近は傑作アニメ映画が非常に多く、特に映像なら無限列車、脚本ならシンエヴァンゲリオン、音楽なら間違いなくこの作品を推せるほど
それほどまでに優れた映像、音楽の水準にありながらかぜこの評価かというと、それを補ってあまりあるレベルの脚本の拙さ、雑さが要因です
狼子供から始まるここ10年ほどの細田守作品は恒例ともいえる肩透かし感、ガッカリ感を伴う作品ばかりで
特にバケモノの子などは前半のワクワクを徐々に台無しにされていくような当時の落胆を今でもハッキリ覚えています
冒頭はサマーウォーズのOZにログインするプロローグのセルフオマージュで始まりましたが、この時点でサマーウォーズの焼き増しという印象が拭えません
実際にはその後圧巻ともいえるU世界の表現シーン、BELLの歌唱力で呑まれてしまい、確実にサマーウォーズを過去のものにしてしまうような迫力を感じました
キャラクター周りも時をかける少女よりのやや甘酸っぱい人間模様が描かれ、その世界から抜け出すようにU世界に飛び込む主人公と、観ていて特に指摘するような粗もなくその順調な滑り出しに「これは相当な傑作なのでは?」と強い期待を抱きました
バケモノの子同様、細田作品は素材が良いだけに期待感は毎度高められます
実際にはBELLのライブは一回きりで、あとはとってつけたような〝竜〟探し、〝竜〟との交流に大半の尺が割かれ、現実の主人公とBELLとのギャップに悩む展開や、甘酸っぱい恋模様、BELLが少しずつ認められていく様子など描こうと思えばいくらでも魅力的な話にできる部分はことごとく早巻きで飛ばされていきます
それほどまでに重要な存在である竜の正体は特に意外性があるわけでも、深い意味を持つわけでもない
「ああ、そうなの」としか言いようがない人物で
その姿が最初チラッと映った時、狼子供の雨に似てるし、雰囲気〝竜〟っぽいな、と思ったものの、全く接点のないポジションのキャラなため、「さすがにこの人が竜はないな」と思いましたが
終盤の展開はもう言葉が追いつかず、サマーウォーズでたとえるなら残り1分で落下してくるアラワシを止めるためにケンジがロケットに乗って宇宙に旅立つような荒唐無稽ぶりで、しかも直接的な解決には至らず、ここまで噛み合わない脚本は逆に貴重なのではと思えるレベルでした
直近でみたシンエヴァンゲリオンが、あまりにも丁寧で、関わってきたファンや関係者全てへの感謝に溢れるとても情緒豊かな脚本だっただけに、粗さがなおさら際立ち脚本の悪さだけで作品そのものの評価が二段階は落ちてしまいます
ですが、音楽は何度も言うように圧巻ですので、映像美と合わせて楽しみに行くだけに1800円を払う価値は十二分にあると思います
キャラデザもよく、主人公にも魅力はあるかと思います
この路線に脚本が伴えば、大化けする可能性もあるほどのクオリティです
次回作で今回の反省点を踏まえれば、細田守作品がアニメーションのトップに立つのも夢ではないかと思われます……が、やはり脚本は別の方にお願いしたほうが良いのでは