「中村佳穂ありきなのに、それすら機能不全 あのビジュアルで竜と言い張るとは…」竜とそばかすの姫 A Poさんの映画レビュー(感想・評価)
中村佳穂ありきなのに、それすら機能不全 あのビジュアルで竜と言い張るとは…
ストーリーが致命的に破綻しているのはもちろんだが、ストーリーを押しのけてまでゴリ通した中村佳穂ありきの作品だろうに、彼女の歌の個性を殺すような、ただただ仰々しく歌うだけの楽曲。Imaxでやる必要が果たしてあったのだろうか。
途中で出てくる変なキャラのキンキンしたアニメ声が耳障りだった。音楽好きにあの手の声はきついのではないかな。
で、竜が狼のような野獣の姿だったのはギャグなのか本気なのか。竜の要素ゼロ。ウロコはないけど筋骨隆々毛がふさふさ。竜で逃げ切るならウロコは欲しかったなぁ。ディズニーの許可をとっていることを祈ります。訴訟になりませんように。
登場人物の心理も描ききれず、言いたいことはあるだろうけれど、どの主張もキャラクターも消化不良で説明不足か、解釈がステレオタイプで安直だった。大体の不幸が町内で何人かいるレベルで世界数億人の中にあるであろう想像を絶する絶望には思い至らない感じも薄寒い。均質な学校の同級生の会話の世界観で世界の数億人の仮想社会を見ても、どうなんでしょうね。アニメーションにはそこを想像させる力があるのに、作り手が世界を閉じていては、全くクリエーターとして魅力的ではない。私はアニメ好きでも監督ファンでもないので、全く理解できなかった。
少年を「助ける」が、どう実現したかも不明で、ただ抱き合って気持ちがわかっただけで、救いはしていないというところからも、このテーマが決してこの作品のメインではなく、雑に扱われていることを象徴している。なら描く必要ないよね。描くなら意味を持たせないと。
社会派をやってみたかったのだろうけれど、結局思想も主張もなく、とりあえずナイーブで内向的なアニメファンの琴線に触れようと媚びた小咄を雑にねじ込んだ印象。親子関係の問題も同様。ありきたりというか、安全な土地で不幸な人を想像した時のあんちょこステレオタイプ。
母親を失って傷ついた子供が、父親に甘えた態度で不機嫌に接するようなことは現実にはまずないという当たり前のことすら想像がついていないのも白ける。
低予算TVアニメ風の演出も残念だった。映像を作り込んでも結局キャラクターは平面的なアニメイラスト、大事なところが漫画のコマのように平べったく、アニメーション表現としても成立していなかったため、頑張った映像表現も陳腐なものに。
仮想空間の世界観からして、美女と野獣の城や夜空のビジュアルはマッチしていなかった。仮想空間の世界に作り込みがちゃんとできていたら、あんな表現にはなっていなかったのではないだろうか、と思うとただただ残念。生ぬるく何も考えずに生きてきた薄っぺらく想像力のない排他的な世界観の持ち主が作った後世に何も残さない駄作。