劇場公開日 2021年10月8日

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「映画というよりも演劇」プリズナーズ・オブ・ゴーストランド 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0映画というよりも演劇

2021年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 園子温ワールド全開ではあるが、やや頭でっかちになりすぎたきらいがある。本作品と同じく東日本大震災を扱った園監督の映画「希望の国」では、原発事故が起きた後、いかにして生きていけばいいのか、不安と恐怖の中での生活を現実的に日常的に描いていて、とても共感できた。しかし本作品は、被災者と原子力ムラを象徴的に描きすぎていて、観客は意味がわからず置いていかれてしまう。それを補完するために出演者が声を揃えて紙芝居で原発事故の経緯を説明する。これでは映画というよりも演劇である。実際に役者陣の発声の仕方もナチュラルさを欠いた演劇的な発声だった。
 主演のニコラス・ケイジはすっとぼけたような誠実さが持ち味だが、本作品では彼のよさをちっとも発揮できていなかった。演劇の舞台にニコラス・ケイジを立たせてもどうにもならない。演劇を映画でやろうとした園監督の意図や心意気は感じられるものの、映画としての完成度がどうしても低くなってしまうから、高い評価ができない。

 ただ、原子力ムラの人々に対する園監督の怒りの激しさだけは十分に伝わってくる。アベシンゾウとイシハラシンタロウをミックスさせたと思われるガバナーという人物が醜悪な俗物に描かれていて、そこだけは少しだけ笑えるが、実際の悪人たちはもっと複雑で、善人の仮面をかぶっている。本作品は人物が典型的すぎて、観客に響いてくるものがない。これでは映画としての意味をなさない。
 園子温監督とニコラス・ケイジという組み合わせに期待していただけに、肩透かしを食らった感じである。当方は最後まで鑑賞したが、他の観客の中には二人ほど、映画が始まって30分ほどで早々に席を立って帰ってしまった人がいた。やむを得ない気もする。

耶馬英彦