劇場公開日 2021年7月30日

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「ライトな感動も織り交ぜつつの社会風刺は絶妙なバランス!!」映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ライトな感動も織り交ぜつつの社会風刺は絶妙なバランス!!

2021年8月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

前作『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』がデジタル化された現代社会において、「自由」とは何か。それは時代の移り変わりによって、概念がアップデートされただけで、デジタル化されても本質的なものは実は変わってないのではないだろうか…という、デジタル化の波をあえて否定せずに、受け入れる姿勢をみせたことで、近年の「クレヨンしんちゃん」映画においては、久しぶりに社会風刺色の強いものとなっていたが、今作も切り口は全く違うが、ちゃんと社会風映画となっている。

前作と違う解釈も一部入っているようでもあるが、それは脚本家が違うこともあって、仕方ない部分はあるし、それはそれで「クレヨンしんちゃん」という受け皿を使って、様々なクリエイターがメッセージを発信しているという側面から観ると、それもおもしろい。

前作はアニメ映画とは別畑から『裏アカ』『まともじゃないのは君も一緒』の高田亮を脚本家に迎えたことによって、社会風刺色、メッセージ性がより強いものとなっていたのに対して、今作では、『映画クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』から映画版「クレヨンしんちゃん」の脚本家として定期的に起用されている、うえのきみこが再び脚本を務める。

うえのきみこは、映画版「クレヨンしんちゃん」の過去作へのリスペクトが強いように感じられ、テイストを模索しながら、自分の色をどう出すか試行錯誤してきていた脚本家である。(私の個人的な解釈)

それが惜しいところまで行ったのが、『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ 拉麺大乱』であった。これは往年の映画版「クレヨンしんちゃん」のテイストが久しぶりに感じられた作品であったが、社会風刺、メッセージ性の側面としては、若干弱い感じがしてならなかった。

とは言っても「クレヨンしんちゃん」自体が、時代の流れやコンプライアンスなどに伴い、より子供向けになっていくという限られた表現の場で、どう黄金期のテイストを出していくかというのは、結構なハードルだったように思える。

油断していると、前作のように新たな脚本家が取り入れられ、外されてしまう危険性がある…

過程や理由ではなく、結果があってこそのパフォーマンスによって成績が出され、上位表示されるアルゴリズムのように、一度間違ってしまうと、なかなか負のサイクルから抜け出せないという、特にGAFAによって、リアルな社会にも持ち込まれてしまった概念に対することが、今作のポイント化された社会構造への風刺作品になっているのと同時に、うえのきみこの脚本家としてのスタンスが今作の中でも描かれているテーマのひとつ「自分らしさ」にも反映されているようにも思えてしまった。結果的に、それが上手く機能していて、独自性を出すことに成功している。

ライトな目線からの、友達との別れ、大人の目線からも、『子供はわかってあげない』のような子供が大人になっていく寂しさを描きながら、社会構造への風刺も入れてみせた絶妙なバランスの映画だ。

単純に子供が観ても楽しめる作品でありながら、大人に対してのメッセージも含ませるということは、ディズニーやピクサーがあたり前のようにやっていることではあるが並大抵のことではない

正直言って、日本製アニメだからと言って、最初からブランド的に抜きん出ていられる時代は終わりつつあって、アニメ業界にも様々な国のものが入ってきている。中国やヨーロッパ、中東までもがアニメ市場に参入してくる中で、どうジャパニメーションというブランドを維持できるのか…という過渡期。

それは独立した単発映画だけではなく、今回のようなテレビシリーズの劇場版も同じであり、テレビシリーズという規制の囲いの中で、どう自色を出すかという、難しい立ち位置で勝ち残れる存在は、今後の日本映画業界の財産になる可能性も高いのだ。

バフィー吉川(Buffys Movie)