「一人の精神科医の心の動きを意外なほど軽快なテンポで描いた一作。」心の傷を癒すということ 劇場版 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
一人の精神科医の心の動きを意外なほど軽快なテンポで描いた一作。
安克昌氏は、心的外傷後ストレス傷害(PTSD)の重要性を訴え、心もまたケアの対象であるという、現在となっては広く普及した考え方を提唱し、実践してきた医師です。本作は安氏の業績と言うよりも、その人物像に焦点を当てて描いています。
特に彼の大きな転機となった阪神・淡路大震災時の治療の様子は、派手なスペクタクルなどほぼ皆無であるにもかかわらず、非常に心に迫ってくるものがあります。この時彼が手探りで試みた心のケアの実践が、現在の災害に活かされていることからも、どれだけ彼の役割が大きかったかが理解できます。監督の安達もじりは、NHKの連続テレビ小説の演出家としての手腕を存分に発揮しています。ドラマ版では約200分だった映像を120分に再編集しており、カットが切り替わるといきなり時制がかなり飛んでしまう場面も多々という思い切りの良さ。それが良いテンポとなっており、鑑賞中退屈を感じるような隙はありませんでした。
主演の柄本佑は、芯は強いけど言葉の押しを抑制するという演技で、安氏の心の揺らぎを見事に演じていて、まるでドキュメンタリーを見ているかのような自然さでした。
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