「文句なしに面白い。とにかく予備知識なしで観るに限ります。」フロッグ じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
文句なしに面白い。とにかく予備知識なしで観るに限ります。
おおお! 個人的には近年まれにみる面白さだった。
「未体験ゾーンの映画たち」の枠内で、2週間で終わらせるのはもったいないくらい。
叙述系ミステリー映画はもともと大好物なのだが、一切の予備知識なしで観られて本当によかった。
これが、例の『あれ』とか『あれ』と構成の仕掛けが一緒だとか、それをわかって観るだけでも興ざめだからなあ。言いたくなるのはわかるけど、類似作の名前を出すのならネタバレマークはつけないとね。
年末にシネマ・カリテでやってた『あのクリスマス映画』を思い出させるってくらいなら、大丈夫かな? 一応ネタはかぶらないから。
とにかく感心したのは、脚本の精度の高さ。
これを観て、たんに「俺の知ってるアレと同じ趣向じゃないか」という人もいるかもしれないが、同じ「アレ」といってもいろいろある。
たしかにこの話には、とある仕掛けがある。
だがここで重要なのは、その背後でなお、登場人物全員が、それぞれの目的、思惑をもって動いてもいるということだ。
だから、ひとつの真相が明らかになっても、それが必ずしも全体を表しているわけではない。
このミステリー・ゲームには、目立つ伏せ札と、目立たない伏せ札があって、相互に影響しあっている。それをオープンにしていくタイミング、全部がひっくり返ったと見せかけて、「何枚かのカードはまだひっくり返っていない」というミスディレクション。そこが実に巧いのだ。
本作の最大の主眼は、大ネタの背後で別のネタをひそませる「かけあわせの妙」にある。
もう一点、本作の「恐怖」の描出においては、「がら空きの背中」の怖さ、背後に広がる「空間」の怖さ、ガラスへの「映りこみ」の怖さがひたすら追求されていて、僕は『ハロウィン』でカーペンターが示した実験精神を想起した(あれは、なるべく血やグロテスクに頼らずに、狩られる者の背後の「気配の恐怖」だけでどれだけショッカー演出が極められるかという映画である)。
このショッカー演出の方向性は、きちんと映画の「ネタ」とも密接に関連していて、その辺もよくできている。
まあ正直、粗いところもあって、とくに都合のいい感じで怪現象の真相の追求が寸止めされる展開とか(あんなことが起こって「気のせいか」で流す家族はいないと思う)、防犯装置の扱いとか、指紋の扱いとか、そこはとどめさしとけよとか、演出上で気になるところはそれなりにある。
とはいえ、話の大本の部分については、改めて考えてみても箱根細工がうまく嵌ってるという結論は変わらない。
児童誘拐事件が今更また起き始めた原因が、たぶんあれとかかわっているのだろうとか、風呂場のシーンってたぶんヤツの「実体験」の反映なんだろなとか、意外に「背後のロジック」はしっかり練られているのだ。
まずは、注意深く観て、自分なりの推理や想像を広げておけばおくほど、それだけ種明かしでの感銘度は深くなるだろう。で、その種明かしで納得いかなかったところ、理不尽に感じられたところにもしっかり気をとめておくことだ。その「でもそんなことわざわざやるかな?」「それ、ご都合主義じゃないの?」とひっかかった部分に思いがけない最終解答を与えることこそが、まさに本作のフィニッシング・ストロークなのだから。