劇場公開日 2021年2月13日

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「尊厳を 遠くの親戚 邪魔をする」けったいな町医者 pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5尊厳を 遠くの親戚 邪魔をする

2021年3月28日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

本作をご覧の皆様は基本的に「痛くない死に方」も鑑賞済みと思いますので、レビュータイトルはご存知の通り本多さんの川柳モドキからです。

両作共に「人間の尊厳」について強く問題提起してくれている事、本当に価値ある作品だと思います。

けったいな町医者とは謙遜で、きっと大変真面目な方だろうと思っていたら、本当にけったいな先生でした(笑)(褒めてます)
奥田瑛二さん役の部分はもちろん長尾先生なんだけれど、内面に秘めた反骨心は宇崎竜童さん役にも似た部分をお持ちだろうという気がしましたね。

ただ、これは映画じゃないな?
これをシアター公開するのはどうなのかな?長尾先生の売名行為と受け取られない?と感じてしまったのですが、元々は「痛くない死に方」のDVD特典として作成されたと聞き、それならば納得です。

毛利監督は「痛くない死に方」の助監督であり、本作上映は「敬愛する高橋監督の露払い」という事で、長尾先生の意思が介入しての事ではないのなら、DVDを購入せずとも視聴の機会を得られたのは良かったかな、と。

ただ毛利監督は「ドキュメンタリー」というものをどのように捉えているのかな?
監督インタビューを読んで、
「ドキュメンタリーなので、こちらの思いを押し付けるというよりは」とか
「ある町医者の2019年から2020年初頭の約2カ月間の日々を追いかけただけの作品なので、僕から何かを伝えたいというよりは、見た方が自由に感じ取っていただければと思います。」という発言に違和感を感じました。
思いを押し付ける必要はないけれど、監督自身が「伝えたい何か」を抱いて撮らなきゃ、ドキュメンタリー映画とは言えないんじゃないの?と思いました。
「映画じゃない」と感じたのは、長尾先生のせいではなく、どうやら毛利監督に原因がありそうです。

カルテしか見ない医師。
製薬会社の売人に成り下がっている医師。
妊娠時、初めて参加した母親教室では、地域の産婦人科で1番権力のあるらしい医師から「胎児の死産症例」ばかり延々と聞かされ、挙句「NICUの赤ちゃんは体中、管だらけにされるから通称マカロニと呼ぶ」と言われて、参加者は全員ドン引きでした。
初めての赤ちゃんを授かり、希望と不安を抱えている初産婦達を前にして、馬鹿じゃなかろかと呆れ返るしかありません。

長尾先生がスパゲッティ症候群と唾棄するように仰られていましたが、こういう「権威のかたまり」と日々闘っておられるのでしょうね。
監督が他の方だったなら、もう少し違った切り取り方も出来たのではないかな?

ともあれ、長尾先生の存在を知る事によって、教科書を鵜呑みにせず「自然の摂理」と「人間の尊厳」について深く考えて下さる若い世代の医師が1人でも増えてくれる事を祈ります。

pipi