「Fukaseの殺人鬼に鳥肌」キャラクター bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
Fukaseの殺人鬼に鳥肌
一級のサイコ・サスペンス
日本映画の中で、これまで凄まじいサイコ・サスペンスは無かったように思う。ある意味、ブラピの代表作『セブン』を彷彿とさせるストーリー展開で、後半になるにしたがって、「まさかっ」と思うシーンに、思わず息をのんだ。
原作があるのだと思っていたら、長崎尚志さんのオリジナル脚本で、ノベライズ本とコミカライズ本が映画公開と共に発売されるということ。元々、漫画編集者だった長崎さんだからこそ、描ける漫画家の仕事ぶりやリアルな悩みや葛藤が、作品の中にも覗える。
とはいうもの、凄惨な殺人事件の現場検証シーンは、何度も描写されるのだが、殺人そのもののシーンは、直接的には描かれていない。しかし、山城が描く犯人像や白黒の迫力ある漫画のシーンによって、逆にイメージを掻き立て、その残忍さを伝え、サイコパスによる異常な殺人事件の様相を強く訴えてくる。
主人公の漫画家・山城役の菅田将暉は、今やどんな役柄でも、安定感のある演技を見せてくれる。売れない漫画家から、殺人事件現場を目の当たりにしたことで、非情な殺人犯のキャラクターを生み出し、一気に一流の漫画家に…。そして、その後に待ち構えている、非情な運命へと引きずり込まれながらも、山城自身の中に隠れていた、真の恐怖と向き合う姿を演じている。
それ以上に、この作品を一級のサイコパス映画としたのが、映画初出演のセカオワのFUKASE。死んだ魚のような濁った眼。しかし、どこまでも深く真っ暗な闇を見つめている猟奇的な眼。セカオワの音楽とのイメージも重なる中、学生時代に深い闇に心を閉ざしたFUKASEだからこその、真に迫るサイコパスの演技は、適役とも言える。演技の良し悪しとは別の次元の、サイコパスの異常さがヒシヒシと伝わってくる怖さを感じさせた。
また、脇を固めた、刑事役の小栗旬と中村獅童、そして、山城の妻役の高畑充希は、主役級の俳優陣だが、それぞれのシーンで、大切な脇役としての存在感を示し、ストーリーのクオリティーを高めている。特に、小栗旬は、これまでなかったような、「えっ、まさか…」と思う役どころでもあった。
唯一の心残りは、ラストまでイヤミスで終わっていれば、サイコ・ミステリーとしてのインパクトは、もっと強いものが残ったように思うこと。『セブン』のように非情に迫り切れないところが、日本映画の良さでもあるかもしれない。しかし、しかし、エンドロールの時に響いたあの音は、新たな恐怖の余韻を残すには、十分に効果があった。