「我々はこの社会に存在を受けたキャラクターなのか」キャラクター 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
我々はこの社会に存在を受けたキャラクターなのか
邦画のサスペンス物、特にサイコ・スリラーやダーク/ハード系はつまらないと昔からよく言われる。ハリウッドや韓国と比べると圧倒的に格下と…。
演出や脚本、会社や日本映画界の事情その他諸々あるかもしれないが、こういう理由もあるかもしれない。
インパクトある“キャラクター”が居ない。
つまらないと言われているけれど、邦画でインパクトあったハード・サスペンスって、『冷たい熱帯魚』然り『孤狼の血 LEVEL2』然り、インパクトある“キャラクター”が居た。
そして本作も…。
山城圭吾もそう。
人気作家のアシスタントを続ける漫画家志望。
彼が題材にするのは、殺人鬼を主人公にしたサイコ・スリラー物。
画力はある。新人賞など幾つか賞も取った事もある。
が、“漫画家”としてデビューした事はない。
致命的な理由が…。
人のいい性格故、インパクトある凶悪キャラクターを描き切れない。
それってどうなのだろうか。
例えば映画の世界でも、その時代に生まれてないのに、戦争映画や時代劇や西部劇の傑作を撮る監督がたくさんいる。
やはり才能やセンスの違いか…?
山城にはそれが無いのか…?
しかし、思わぬ形で彼の才能×運命が花開く…。
アシスタントの仕事で家のスケッチをしに。
その家から大音量の音楽。近所から苦情。
人のいい山城は音楽を消して貰うよう家の中へ。
ツルッと滑る。
血の海…。
一家4人が無惨な姿で…。
その時山城は見てしまう。立ち去る犯人の姿を…。
事情聴取。
経緯についてはくわしく話すが、犯人については見てないと嘘を付く。
これは後々語る事になるが、クリエイターの性なのか。
どんな異常なもの、恐ろしいものを見ようとも、そこに何かを発見したと。
作り手はどうしても作り、見る側はどうしても見たい。
残虐でグロく、痛々しいホラー。
人の深層心理に突き刺さるスリラー。
若干違うかもしれないが、アクション映画のド派手なバトル、銃撃、カーチェイス、SF映画の大爆破、都市破壊、天変地異…。
現実世界では起こり得ない非現実的な世界にカタルシスを感じる。
人の中にそんな欲求はある。
山城はあの夜見た犯人をモデルにした殺人鬼主人公の漫画『34』を描き始める。
念願の漫画家デビュー。インパクトある殺人鬼キャラクターがウケ、作品は大ヒット。全くの鳴かず飛ばずから、一躍売れっ子に。
アパート暮らしから超高級マンションへ。
同棲していた恋人・夏美と結婚。妊娠。(←後にある伏線)
羨まし過ぎる成功。よく言われるけど、成功した漫画家ってスゲェ…。でも、それはほんの一握り…。
だけど何故か浮かない表情の山城。やはり、殺人を下敷きにした事に罪悪感があるのか…?
とある山中。4人家族が惨殺体となって発見された。
あの事件と類似点もさることながら、さらに驚くべき事が。
事件の何もかもが、山城の漫画『34』とそっくりな事に、刑事の清田は気付く。
模倣か、それとも山城が…?
事件を知って動揺する山城。
そんな彼の前に現れる。
「ダガー(『34』の主人公)って僕ですよね?」
ある意味、『34』の熱狂的なファン。
山城はすぐに分かった。両角と名乗ったこの青年。
あの夜見た犯人である事を…。
スティーヴン・キングは小説家ならではの恐怖を描いた作品があるが(『ミザリー』『シークレット・ウィンドウ』etc)、こちらは漫画家ならではの恐怖が描いた着眼点が面白い。
それもその筈。『20世紀少年』などの漫画家・浦沢直樹作品に関わってきた長崎尚志によるオリジナル・ストーリー。話の面白さはそれ故。
4人家族を狙った連続殺人が続く。
全て両角の犯行。しかも、自分の作品を模倣して。
自分が描けば、アイツが人を殺す。
言い換えれば、自分の漫画で死者が出たようなもの。
人のいい山城がそれに平常心でいられる筈がない。苦悩。
しかし、自分は漫画。描くのを辞めたいと言いつつ、本当は描き続けたい自分がいる。葛藤。
『34』を描いている時の取り憑かれた表情。
山城にとって両角は、恐ろしくも最高のキャラクター。
それに対し両角は。
後々徐々に分かってくる両角の生い立ち。
自分は何者でもない。
そんな自分をモデルにし、山城先生が創り上げてくれた。
初めてこの世に、生(=キャラクター)を感じた。
だから、そんな僕からの、敬愛する先生への恩返し。
先生の作品を、僕が完璧にしてあげる…。
山城は両角が持ち掛けてきたアイデアを漫画に活かす。
残忍な方法で人を殺す。サイコパス。
どっちもどっち。一切その心情など分からない。
分からないのに、その奇妙な関係がスリリング。
ここに絶妙なほど、真っ直ぐな正義感放つのが、清田。
元暴走族。理解者はその時から目を掛けてくれた先輩・真壁。(親友みたいにタメ口だけど)
それ故警察上層部から疎まれるも、『34』と事件の関連性にいち早く気付く敏腕ぶり。
事件を追う。徹底的に。
徐々に事件解明の糸口と、犯人=両角に近付いていく…。
純粋に山城の漫画のファンでもある。
ペンを置こうとする山城に、エール。
漫画を描き続けて欲しい、と。
さすがの演技力を見せる菅田将暉、ナイス好助演の小栗旬。
だけど何と言っても、言わずもがな!
Fukaseの圧倒的存在感、怪演!
2件目となる殺人で、山中を歩く彼を後に彼に殺される事になる家族が車に乗せるシーン。そのシーン、Fukaseの佇まいだけでもゾクッ…。うわっ、ヤバい奴乗せちゃったよ…。
突然発狂したり、サイコなシーンもあるけど、物静かな雰囲気や穏やかな声がより不気味さを煽る。
撮影前に1年半の演技レッスンを受けたとは言え、役者デビューでこれほどのインパクトある“キャラクター”作り!
これも一つのアーティスティック。その表現方法に身震いした。
一度はペンを置こうとした山城。
が、ある悲劇が起こり、その為にも再びペンを取る。
漫画家が漫画を描くという事は、以前見た『バクマン。』でも感じたが、何かと闘うという事。
漫画を通じて、両角と決着を付ける。
売れっ子になってからデジタルで描いていた山城。
この時、昔通りのペン書きだった事に山城の決意を感じた。
山城の言葉、「漫画を尊敬している」は、皆それぞれ自分が好きなものに当てはめられ、ジ~ンとした。
三者三様のドラマと、人のダークサイド。事件捜査サスペンス。
多少安直であったり、先読み出来たりもなきにしもあらず。
常に4人家族を狙う両角。山城は自分の家族を囮にするが、両角が狙ったのは…。ここで、夏美の妊娠。
いよいよ両角に近付いた清田。ああ、何となく分かっていてもやっぱり…。
当初犯人として逮捕された不審な中年男、辺見。その後もちょろちょろうろつき、何奴!?…と思っていたら、上記に関わる思わぬ行動を。って言うか、そのシーン、メッチャびっくりした…。
あっさりと犯人=両角に辿り着いた警察。が、調べると、お決まりの“お前は誰だ?”。
本名、戸籍不明。“両角”は他人の戸籍のもの。
しかし、これがこの男の哀しき存在を浮き彫りにもする。
事件をもう一度洗ってみると、2件目の殺人が起きた山中が、かつて4人家族こそ幸せの象徴と考えるコミュニティがあった場所。
今はもう廃村となり、そこで生まれた子供たちの消息は分からず。
ひょっとして“両角”はこの村の出身…?
生まれた時からこの社会に戸籍も無い。“キャラクター”も無い。
そんな子供たちがまだ、居ないとは言い切れない。
ヒューマン・ドラマやラブストーリーでは繊細な演出、菅田将暉との初タッグ『帝一の國』でハイテンションなコメディ演出を見せた永井聡が一転して、サイコ・スリラーに挑戦。
全国公開作にも関わらず、陰湿な作風、血みどろ&痛々しい描写に挑んだ事に拍手を送りたい。
役者陣の熱演、演出、雰囲気、話の面白さ。
飽きる事の多い邦画サイコ・スリラーだが、2時間全く飽きる事なく見れた。
直接対決のその後。
傷付いた手でまた描き始めた山城。
あの“キャラクター”を。
“両角”は何者なのか。
逆に問う。
僕は(あなたは)この社会に存在を受けた“キャラクター”なのか。