劇場公開日 2021年3月26日

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「迷いながらも拳たちは進むべき道を見つけていた」迷子になった拳 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0迷いながらも拳たちは進むべき道を見つけていた

2021年4月12日
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鑑賞方法:映画館

ミャンマーのラウェイは、タイにおけるムエタイのように「国技」だと言われている。パンクラスの尾崎代表が世界一危険な格闘技だと紹介してから残酷なイメージが先行したが、現地の試合の様子は一応スポーツ然といていた。
ラウェイには選手権がないらしく、チャンピオンベルトは贈呈試合で勝てばもらえる勝利者賞だと説明される。“ラウェイのチャンピオン”という宣伝文句は“最強”を意味していなかったのだ。

映画は、前半で金子大輝選手に密着しながら、ミャンマーと日本のラウェイ事情を紹介する。
途中から渡慶次幸平選手が登場し、被写体が彼に移る。
ミャンマーを活動拠点とする金子選手と、新興だがミャンマーから公認された日本の団体を活躍の場とする渡慶次選手が、やがてミャンマーで同じリングに上がるまでの構成はドラマチックで上手い。

金子選手が母親に、渡慶次選手がトレーナーに、それぞれ叱責される場面がある。
過激なルールで闘っているとはいえ、競技人口の少ないラウェイに身を置く彼らは格闘技の一流選手ではなく、むしろマイナーリーグの二流選手。いみじくも、二人とも心構えの弱さを厳しく問われたのだ。
リングに上がる勇気がそのまま覚悟とは言えない。彼らは自らの生き方を見つめ直さなければならなくなった。
そして二人ともラウェイを続けるので、覚悟を新たにしたのだろう。
終盤は彼らのその後の苦闘する姿を比べるでもなく映し出し、いよいよ二人が参戦する日本対ミャンマー対抗戦日本大会へと舞台が進展していく。

金子選手が身を寄せるミャンマーのジムの会長の言動に、ラウェイの根底に流れる神聖さが垣間見える。
対抗戦で、日本側代表である金子のセコンドにつき、優勢に気を良くした金子がコーナーで「オレ、格好よくない?」と舞い上がるのを見て「相手をリスペクトしろ」と諭す。

ラウェイを日本とミャンマーの架け橋にしたいと考えていた人たちの思いが、日本の未成熟な格闘技興業界の犠牲となってしまったことは気の毒だ。
今や格闘技興業のメインステージとなったRIZINの榊原代表などは、ラウェイを知ろうともせず色物興業の出し物としか見ていないことが解る。

最後に、金子選手は国内に拠点を移してK-1に転戦したことが紹介され、渡慶次選手はミャンマーで学校設立に尽力したことが伝えられる。
監督が「僕」の事情を字幕で語るのがこのドキュメンタリーにどう関係するのか、最後まで不明だった。
ラウェイに青春を捧げた男たちを追いながら、自らの人生と結びつけたかったのかもしれないが、迷子になったのは拳ではなく監督自身だったのかもしれない。

金子選手は母の姓にリングネームを変え、南雲大輝としてキックボクシングの世界でラウェイを背負って今も闘い続けているようだ。

kazz