劇場公開日 2021年3月26日

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「殴り合いでなぜ生を実感するのか」迷子になった拳 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0殴り合いでなぜ生を実感するのか

2021年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

安全や安心は現代社会で絶対の正義だ。しかし、そんな社会に皆が馴染めるわけではないはずだ。程度の差はあるだろうが、人にはある程度の危険が必要なのだと思う。本作は、グローブもつけずに殴り合う、世界一危険な格闘技と呼ばれるミャンマーの国技、ラウェイに挑む日本人をとらえたドキュメンタリーだ。なぜそんな危険な格闘技にわざわざ挑むのか、だれも明確な答えを示せない。ただ、殴り合っている彼らはとても充実感に満ちているように見える。
ラウェイの試合はかなり血なまぐさいのだが、同時に宗教的な厳かさもある。そもそも、ミャンマーでは1000年以上続く伝統的な神事だそうで、日本でいう相撲のような存在なのだろう。また判定での勝敗がないというのも面白い。神事においては勝ちと負けを分断する必要ない、それよりも重要なものが戦いの中にあるということなのだろう。
本作を見て、人はなぜ古来から殴り合いや殺し合いを見て楽しむのかを考えた。変わりに血を流してもらうことで、鑑賞者も生の実感を得たいのかもしれない。血湧き肉躍るという言い方があるけれど、映画を見るというのもそれに近い。

杉本穂高