「階段」野球少女 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
階段
俺はこの手の話に滅法弱い。
ましてや主人公が女子なら尚更だ。
…いや、それはこの作品には失礼かもしれない。
プロ野球選手を目指す女の子の話だ。
実話がどうかはわからないが、自らの目標を追い続ける事の困難や葛藤が凝縮されてた。
また人物達の背景がいい。
ありがちな設定でありながらも、その台詞や芝居は説得力に溢れてた。
「女だから」
才能以前にその障害にぶち当たる。
「女性にしては」
いくら努力を重ねてもその鎖を引きちぎれない。
プロ野球という職種ならば、圧倒的なポテンシャルの差は否めない。
それでも彼女は諦めない。
今はダメでも明日なら。
今日の自分は足りなくても、明日の自分は今日の自分よりは強くなってるはずだ。
明日がダメでも明後日がある。
モチベーションを信念で支え続ける。
茨の道を歯を食いしばり進み続ける彼女は立ち止まる事を恐れてもいるようだった。
自分が諦めたら終わり。
黙々とひたすらに歩み続ける彼女の前に現れるコーチ。またこのコーチが小憎らしい。
自身もプロを目指すも、現実の壁に負けてしまった人なのだ。彼女の挑戦は、敗者である自分への嘲りにでも見えるのだろうか。彼は彼女を否定する。
だけどそれは性別ではなく、実力をだった。
そして彼は指導者として彼女と共に茨の道を歩き出す。彼が感じた壁よりも、遥かに高い壁を目の前にしても、一切怯まない彼女を過去の自分と重ねたのかもしれない。
その壁をブチ破る為に、彼女の生き残る道を模索していく。人知れず始まるサバイバルゲームだ。
上を目指す限り、どこまでも登り坂だ。
ブチ破った壁の向こうには、新たな壁がある。
物語の途中、階段を登り切った彼女は歓喜の雄叫びを上げる。それは達成した喜びではあるが、次の壁に挑戦する資格を手にしたのと同意だ。
喜び、再び前を向いた彼女の前には、新たな階段がある。
脚本が上手いなぁと思うのは、終盤の彼女は、どこまで登っても終わらない階段に疲れた様子だった。
トライアウトでプロ選手を凡打で打ち取った。
今までの努力は一応の結果をもたらしたかのようにも思える。自分の努力を肯定してしまえる結果と、その世界での未来予想を得てしまったのかもしれない。
そこに球団からの連絡が入る。
まるで違う世界に戸惑う彼女にオファーされたのは、選手ではなく球団フロントとしての仕事だった。
それはそれで凄い事なのだけど、彼女は受け入れない。どころか自分の選手としての価値を説く。
その言葉は、コーチからの受け売りだけども、すでに彼女の血肉となった言葉だった。
そして彼女は2軍としてプロ契約する。
最後は自らの手で、その壁をブチ破ったのだ。
でも2軍。
そしてまた彼女は新たな階段を登り始める。
ラストカットの彼女の顔が印象的だった。
敗者でも勝者でも挑戦者でもない。
どちらかと言えば、感動すらない。
「また、ここから始まるのか…」
と、どこか挑戦し続ける自分の境遇を憂いてるようでもあった。
本作は「野球」を題材に描いてはいるが、別に野球に限った話ではない。
やりたい事をやり続けるならば、必ず訪れる葛藤を描いてる。所詮は登り坂。ぶつくさ言うならとっとと降りろ。私は勝手に先に行く。
決意の宿る主役の強い目に後押しされる。
おそらくならばNetflixの韓国ドラマがヒットしてなければ日本では公開しなかったんじゃなかろうかと思われる本作。見れて良かったし、Netflixに感謝。
にしても…言葉が分からないせいなのか、韓国の俳優は端役に至るまで芝居が上手いなぁ。
母親役の人なんて、抜群だったもんな。
ただの青春映画に成り下がらない所が、流石は韓国作品って感じ。
堪能しました。