「宇宙に行くのは大変なんです」約束の宇宙(そら) よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙に行くのは大変なんです
言うまでもないが、現時点で宇宙へ行くというのは大変リスキーな行為だ。
まず、そもそも打ち上げが成功する保証がない。以前に比べれば遥かに成功率が上がったとはいえ、少しの間違いで打ち上げが失敗すれば、搭乗者は確実に死ぬ。そして無事に大気圏外へ行けたとしても、宇宙にいる間、地上へと帰還するまでは常に死と隣り合わせなのだ。
それでも、宇宙を目指す人は多い。わたしだって行けるものなら行ってみたい。重力の軛を離れて、遮るものもない無音の空間に身を委ねることに、憧れる。この作品の主人公サラも、幼い頃から宇宙への憧れを持ち続け、遂に飛び立つ権利を得た人だ。
けれども、彼女にも心残りが一つだけある。幼い一人娘ステラ。宇宙への憧憬はその名にも反映されている。これは、やっとの思いで掴み取った夢と、娘との別れという現実の間で葛藤する女性の物語だ。
一般論として、やはりこういう時は父親より母親の方が葛藤を持つものだろうか。映画の中でも対比として、一緒に宇宙へ上がる飛行士マイクの存在がある。彼は二人の男の子の父親だが、少なくとも子供と別れることに逡巡する様子は描かれない。子供たちも父親を英雄視しこそすれ、別れを惜しむ様子はない。
けれどサラとステラの母娘は事あるごとに迷いや寂しさを隠さず、時には落ち込んで逃げ出したくなったり、或いは拗ねて反抗したりという様子も描かれる。その辺りはやはり父性と母性の差なのか。
物語は旅立つ母を見送る娘のシーンで終わる。スタッフロールに差し挟む形で、現実の、母親である女性宇宙飛行士たちの姿を映す。宇宙への憧れを叶える権利は、性別に関係なく与えられて然るべきものだ。とはいえ、性別による違いとは別の部分で乗り越えねばならない壁があることを示し、それでもなお夢を叶えた人たちへの賛辞がそこにある。
……という当たり障りのない感想はひとまず措くとして、なんというかちょっと物足りないものがあった。いや、たしかに上に書いたような映画ではあるのだけど、なんだろう、今ひとつ盛り上がりに欠けるというか。
多分、宇宙ものであるという意識で観たから宇宙に出るところまでで話が終わってしまって拍子抜けだったのと、クライマックスで母娘が約束を叶えるために重大な違反を犯してるのに、なんのペナルティもないのはちょっと都合良すぎない? というところで引っかかってしまったせいではないかしらね。後者は特に、変に正義感を振りかざして言うわけじゃないけど、もう手ょっと別のやり方でも良かったんじゃないかな。だって、それくらい、宇宙へ行くのは大変なんだもの。