劇場公開日 2021年2月26日

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「人間五十年、夢幻の如くなり」カポネ pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人間五十年、夢幻の如くなり

2021年3月5日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

監督に表現したい熱いテーマがある事はわかるし、トム・ハーディーがそれを受け止めて見事なまでの快演をしている事は素晴らしい。しかし、それが観客に伝わるだろうか?と問えば首を縦に振るのは難しい。
芸術的な前衛表現を解読するのが趣味という人以外には、シアターではなくVODをお勧めしてしまう。
妄想と現実が錯綜した夢幻の狭間に誘う手法は近年作品だと「JOKER」を思い起こさせた。

ただ、トランク監督が如何にアル・カポネに対して思い入れと造詣が深かったかを知ると同時に、自分の抱いていたカポネ像がアンタッチャブルのネヴィル・ブランドーと、なによりロバート・デ・ニーロに引き摺られたものに過ぎなかった事に気付き、猛省した。

改めてカポネについて学び直したところ次のような生涯だと知った。
12歳まで・・・学業面は優等生
10代  ・・・不良少年。ただし稼いだ金を母親にあげるなど家族思いの面は変わらない。19歳で息子誕生。その月に結婚。

20代  ・・・カタギで働く時期もあったがマフィアで頭角を表す。ジョニー"パパ"トーリオの跡目を継ぎ、26歳で組織のトップに立つ。ギャングとしての面よりも悪徳ビジネスマンとしての才に優れていた。
敵には冷酷だがカタギには優しく、一般市民が巻き込まれたら医師を手配し治療費を全額負担したり、5000人を超える貧しい人々に毎日3食の食料配布をしたりして人気があった。「聖バレンタインデーの虐殺」までは。

30代 ・・・獄中にて服役生活。30代半ば頃から梅毒が悪化し、痴呆症状が進行する。
40代 ・・・出所時は、逮捕された頃の凄みは見る影もなく、知能は12歳程度まで逆行していた。フロリダで家族と過ごすも時すでに遅く、48歳誕生日の1週間後に病死。

という事は、世に広まっている「暗黒街の帝王」というイメージは、たかだか26歳〜30歳の4年間程度の出来事なのだ!
20代後半なんて、どれだけ人気絶頂だとしても人間的にはまだまだ若造ではないか・・・!
40代のデ・ニーロが円熟の演技で魅了してくれちゃったものだから、すっかり誤解していた。
カポネのアメリカン・ドリームは、僅か20代10年間の夢に過ぎず、それ以降は自由も無く、物理的な牢獄と精神的な牢獄の中で責め苛まれるだけの時間だったのだ。収支計算は合っているのかもしれないが、なんとも哀れだ。

しかし、悠久の天上界から見れば、人の世の五十年などは、まばたき1回の間に過ぎないのであろう。
私もこの無常の世に生を受けたからには、思いっきり生き抜いてやろうではないか、と改めて思う次第である。

ちなみに個人的にはマット・ディロンがめちゃくちゃ良かった〜。アウトサイダーやランブルフィッシュが大好きだったので、アウトサイダーのダラスがもし生きていたら、こんな風に渋くカッコ良いダーティーヒーローになっていただろうなぁ、と夢想した。結局殺されてるけど(苦笑)
観客に不親切な前衛表現は星3〜3.5と感じるが、ハーディの好演、トランク監督の拘り、更にはマット・ディロンへの贔屓点を加味して甘め評価となった。

pipi
masamiさんのコメント
2021年3月26日

pipi様のレビューはパンフレットに載っているレベル。それに比べて私のは・・・恥ずかしいです。
驚異的に面白くはないかもしれませんが笑ってくれたら嬉しいです。

masami
NOBUさんのコメント
2021年3月5日

今晩は
 レビュー、拝読しました。
 知らなかった事も多くて、とても勉強になりました。
 有難うございます。
 今作は、明らかに一般受けしないだろうなあ・・、と思いつつ、私は非常に面白く鑑賞しました。(梅毒かな?)
 私のおバカな(あの曲は本当に頭に流れていました。本当です・・。)レビューを読んで頂き、有難い限りですが、このレビューサイトにはmasamiさんと言う驚異的に面白きレビューを投稿されている方がいらっしゃいます。
 ご存じでしたら申し訳ありませんが、豊富な知識と笑いのセンスは凄いですよ。
 では、又。

NOBU