「「クロニクル」監督の持ち味を活かしきれず」カポネ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
「クロニクル」監督の持ち味を活かしきれず
ジョシュ・トランク監督デビュー作の「クロニクル」は、オリジナルなアイデアと低予算の割にリアルで意外性のあるVFXでSFファンを楽しませてくれた。第2作「ファンタスティック・フォー」(2015年版)は残念な出来だったので、今度こそはと期待していたのだが…。
米国のみならずおそらく世界でも史上最も悪名高いギャングであろうアル・カポネを登場させた、あるいはモデルにした映画は多々あるが、服役後の晩年を取り上げるというのは珍しく、それゆえに挑戦のしがいがあったのはよくわかる。450件もの殺人に関与したとされる大悪党が、晩年は梅毒の後遺症で認知症を患い、幻覚と現実の区別がつかなかったり人前で失禁したりなど、もの悲しいエピソードが続き、確かに全盛期とのギャップが興味深くはある。主人公の幻覚を客観的な映像とシームレスに見せる演出は、(ホラーやサスペンスを除外すると)例えばロン・ハワード監督作「ビューティフル・マインド」などを思い出させる。おそらくはカポネの意識を疑似体験させる狙いもあったと思われるが、不必要に観客を振り回している気がしなくもない。
毎日4時間の特殊メイクを施されたというトム・ハーディはさすがの熱演で、病状ゆえに表情豊かにできない制約をものともせず繊細な表現で飽きさせない。カポネの妻を演じたのは「グリーンブック」で最高にチャーミングだったリンダ・カーデリニだが、彼女の魅力も十分に活かせていなかった。
コメントする